109.三題噺「予習、におい、ボディチェック」

「お兄ちゃん。行ってくるね」

 私は、明日先輩の家に行くから緊張でガチガチのお兄ちゃんに声をかけて家を出た。

 両思いなんだから付き合っちゃえばいいのにと思うけど、面白いから放っておいてる。

「〜♪」

 鼻歌を歌いながら私はナル君の家に向かう。

 ナル君のお姉さんが私を家に上げてくれた。
 この人もお兄ちゃんのことが好きだ。

 いったいお兄ちゃんは何人の女の子に好かれてるんだろう。
 優しくてかっこいい自慢のお兄ちゃんだから仕方がないのかな。

 リビングに入ると、ナル君が携帯ゲーム機で遊んでいた。
 でも、私が来ても反応がない。

「ナル君? 遊びにきたよ?」

「……ごめん、今ゲームいいところだから」

 ナル君は流行りの対戦ゲームをしていて画面に釘付けになっている。

 むぅ。私が来たのにちらっとも見てくれないのは癪だなぁ。

 そうだ。いたずらしちゃお。

「えいっ」

 私はナル君の背中に抱きついた。
 普通の男子ならこれでいちころだ。

 ……あ、ナル君いいにおい。

 これで慌てふためくと思ったけど、ナル君の集中は切れない。
 ならこれはどうだろう。

「ねぇ、ナル君〜。私が来たよ〜。ナル君のことが好きな子がきたよ〜」

 囁き声でナル君に耳打ちすると、息にびっくりして少し体が跳ねた。

 でも、まだ私を見てくれない。
 鬱陶しそうに体を捩っている。

 これ以上邪魔してナル君が負けちゃうのは嫌だしなぁ。

 寂しいけど、待とう。

 渋々だったけど、いつの間にか手に汗握る戦いに見入って楽しんでいた。

 結果は、ナル君の勝利だ。

「やったぁ!!」

 ナル君はガッツポーズをして喜びを噛み締めている。

「ゲーム上手なのかっこいいね!」

「妹ちゃん……!?」

「やっほー」

 私はまだナル君に引っ付いたままだ。
 急速に顔を赤くして慌てるナル君。

「ふふっ。かわい♪」

「ど、どうしておれ様にくっついてるの?」

「ナル君が危険物を所持してないかボディチェックしてるんだよ?」

「持ってるわけないでしょ!?」

 あはは、もっと悪戯してもいいけど、流石にこれ以上は可哀想かな。
 名残惜しいけど私はナル君から離れた。

「ところでナル君夏休みの宿題終わった?」

「……あ。妹ちゃんは?」

「とっくに終わってて、今は予習してるよ」

「……おねがい。手伝って?」

 ナル君は罪深い上目遣いで私におねだり。

「いいよ」

 代わりに何して貰おっかな。

 私はご機嫌だ。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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