177.三題噺「抜け殻、着の身着のまま、からっ風」
「さて、今日は何しようかな」
出かける妹を見送り、僕は今日の予定を考えた。
誰からも連絡は来てないし、何もせず抜け殻のように自堕落な時間を楽しむのもいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、スマホに一件の通知。僕は差出人を確認する。
「同クラさんだ。『暇なら出かけない?』か……」
僕はいいよ、と返信をした。
待ち合わせ場所に向かうと、ロングスカートを履いた同クラさん。
そわそわしている。
「お待たせ……え?」
同クラさんは薄らと化粧をしていた。
かわいさが何割増しにもなっている。
「ううん。ま、待ってないよ……?」
僕は同クラさんのあまりの可愛さにタジタジになる。
可愛いの一言すら出てこなかった。
「じゃ、じゃあ、行こっか」
必死に絞り出したのは、ただの後回しという名の逃げの一手だった。
並んで歩いていると、前に小学生くらいの小さなカップル……というか妹達がいた。
妹は男の子の腕に掴まっている。
タジタジになっている男の子はナル君だった。
「あ、あんまり、おれ様にくっつかないでよ妹ちゃん!」
「え〜、なんで? もしかして、ナル君照れてる〜?」
「て、照れてないっ! 妹ちゃんが可愛いからって、おれ様が照れるわけないよ!」
かすかに会話が聞こえる。
相変わらずナル君はナルシストの意味を勘違いしたままのようだ。
そんな可愛らしい一面がありつつも、女の子を褒めるという、男の子の勤めを果たしている。す、すごい。
「恋愛力というものがあったら、とっくに僕は妹にもナル君にも追い越されてるよ……」
「お、落ち込まないで!」
同クラさんが必死に否定してくれる。
でも、僕は気になる女の子達を前にして何もできないんだよ……。
今日だって可愛いの一言すら言えないヘタレ具合だ。
あれ、視界が滲む。
目にゴミでも入ったかな……。
「僕ごときが多くを望むなんて烏滸がましいよね。着の身着のまま生きていくことにするよ……」
「お、落ち込まないで! いいところはたくさんあるよっ!」
あせあせと、同クラさんは僕を励ます。
登山でもして己を鍛え方がいいのだろうか。
そんなことをしても恋愛弱者、貧弱で無力な僕はからっ風に吹き飛ばされるんだろうな。
「僕は何をしてもダメダメだぁ……」
「ひ、卑屈にならないで! 私は君のことす、す……、き……素敵な人だと思ってるよ!」
「……うぅ……。ありがとう」
同クラさんの気遣いが胸に沁みた。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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