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175.三題噺「放心、マーマレード、生徒会長」

 最近、校内の風紀が乱れているという噂があり、僕と後輩ちゃんは見回りをしていた。

「いつまで残ってるんですかー!」

 後輩ちゃんは教室に入り、大声で注意した。
 残っていた生徒達は蜘蛛の子を散らすように鞄を手にして逃げていく。

「まったくもう……。あ、ギターが置きっぱなしじゃないですか」

 急いでいたせいで机に放置されたままだ。
 後輩ちゃんはギターを手にして少し鳴らす。

「後輩ちゃん。弾けるの?」

「おじいちゃんに教えてもらったことがあるので、少しだけ……」

 僕は楽器はからっきしダメだから尊敬する。

 それから二年生の教室を見て回る。
 男女の話し声がかすかに廊下に響いていた。

 覗き見ると、男女が手を繋ぎ、顔を近づけていた。

 まさか、キス、するんだろうか……。してしまうのか……?

 免疫がない僕はあまりの衝撃に放心して固まる。
 後輩ちゃんはごほんと咳払いをひとつ。

 カップルはひそひそ帰っていった。
 青春を邪魔してしまって申し訳ない。

「学校でイチャイチャなんて不純です」

 後輩ちゃんはぷんぷんお怒りだ。

「でも……。ちょっと憧れます」

 何かを言って視線を僕へ。

 隣にいるのが冴えない男子でごめんね……。

 一階へと降りる人気のない階段を降りる。
 景色は西日でマーマレード色に染まっていた。

「後輩ちゃん?」

 後輩ちゃんは僕より一段高いところで立ち止まっていて、ちょうど目線があった。

「ねえ、先輩。ちゅ、ちゅー……」

「ちゅ?」

 後輩ちゃんはモジモジと何かを言いたそう。
 目を開けたり閉じたり、唇を窄ませたり、どうしたんだろう。

「あのギター、チューニングずれてました……」

「そうだったんだ。耳がいいんだね」

「はい……」

「どうしたの? なんか、変だけど」

「……なんでもないです」

 後輩ちゃんは顔を伏せて、静かになった。

 見回りに支障が出ないからいいけど、どうしたんだろう。

 僕が疑問を抱いた時だった。
 制服がかすかに引っ張られた。

「やっぱり、なんでもなくないです」

「え?」

 後輩ちゃんは制服を掴んでた手を撫でるように滑らして、僕の手の甲に触れてきた。

「手、繋いでもいいですか?」

「え、えっと……」

 僕がどうしようかと言いあぐねていると、生徒が近づいてくる足音がした。

「ご、ごめんなさい! 気の迷いです!」

 後輩ちゃんは慌てて背中を向けた。

 生徒会長の僕の風紀を試したのかな。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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