105.三題噺「ピストル、磨りガラス、コンセント」
僕は先輩と一緒にカフェで勉強していた。
隣に座る先輩はシャーペンのノックカバーを唇に当て、さっきから難しい顔をしている。
「ぬわぁ〜」
突然、可愛いうめき声が右耳に届いた。
見てみると先輩は背もたれに寄りかかって天井を仰いでいる。
「どうしたんですか?」
「勉強飽きた」
「まだ10分しか経ってないですよ」
「休憩しよ! 休憩!」
「……まぁ、いいですよ」
甘いものでも食べれば先輩の気力も回復するだろう。
「じゃあ、取調べごっこしよーよ」
「……え? 今なんて言いました?」
「ん? 取調べごっこだよ?」
聞き間違いじゃなかった。
「私刑事役で、後輩くんは被疑者役ね〜」
「わかりました」
先輩の突拍子もない思いつきの遊びはいつものことだ。
僕は成り行きに任せて合わせることにした。
先輩は磨りガラスで仕切られている向かいの席に移動した。ぼやけた姿が見える。
「君がやったんだろう?」
やけにダンディーな先輩の声が聞こえた。
「僕は何も知らないです」
そもそも何の疑いをかけられてるのかも伝えられていない。
「とぼけるな! ……って、磨りガラスのせいで後輩くんの顔見えないや。隣行こ」
「なんでもありですね」
「ここでは私がルールだからね」
先輩は元の位置に戻って手をピストルの形にして僕に向けてきた。
「早めに吐いた方がらくになるよ」
「なんですかこの手は」
「吐かなきゃ撃つっていう脅しだよ?」
随分可愛い脅しだ。1ミリも怖くない。
「めちゃくちゃですね……」
「どうしたの後輩くん。なんか疲れてる?」
「……夏バテかもしれないですね」
流石に先輩のノリについていけなかったとは言えない。
「コンセントで気力充電する?」
「僕は電力駆動じゃないですよ」
「……じ、じゃあ私で充電する?」
「え……?」
「はい」
先輩は僕に両手を伸ばしている。
「声震えてるし、顔、真っ赤ですよ」
「こ、後輩くんこそ」
「……このノリはやめましょう」
「そうだね。何か食べて気分転換する?」
「すみません。今のやりとりでお腹いっぱいになっちゃって……」
「実は私も。あはは……」
その後は悪ふざけせず勉強に勤しんだ。
ちなみに全く集中できなかった。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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