178.三題噺「ポケットティッシュ、学生、落ち着く」
今日はハロウィン。
ある場所では仮装した人で賑わうらしい。
そんな恒例行事といえるものをこの人が見逃すわけもなく……。
「後輩くん、とりっくおあとりーと!」
昼休み、僕は先輩の占拠している空き教室に強制連行された。
「なんですか先輩……」
「あれ? 後輩君。とりっくおあとりーとだよ? お菓子くれないと悪戯しちゃうよ?」
「今更ですが、その格好はなんですか?」
先輩の格好は、元はメイド服であったであろうそれを加工して作ったのか、やけにふりふりしている黒のドレスだ。
その格好で校内を歩く度胸は尊敬する。
「これ? 魔女だよ」
先輩はそう言って、ダンボールの箱に頭を突っ込んでお尻をふりふりした。
スカートが際どいからやめてほしい。
そうして取り出したのは木の棒で作った魔女の杖っぽいもの。
コスプレ服といい、杖といい、なんでも作れる先輩は器用だ。
「ご飯食べてないので、帰ってもいいですか? 食べ終えたらまた顔出しますから……」
「昼休みが始まってすぐに着替えて、後輩くんを連れてきたのには、理由があるのだよ」
「??」
先輩の発言に僕は頭上にはてなを浮かべる。
「はい。私からの悪戯だよ」
先輩に渡されたのは重みのある包み。
「なんですか、これ?」
「開けてみて〜。腕に寄りをかけた私の自信作だよ!」
言われるがまま開けてみると、それはハロウィン弁当だった。かなり凝っていてすごい。
「食べてみて?」
先輩は頬杖をついて僕を眺める。
僕はジャックオランタンを模したかぼちゃ茶巾を食べてみた。
中にはチーズが入っていて、クリーミーなおいしさ口の中に広がった。
「おいしい……」
あまりの美味しさに僕は数秒固まり、感想が自然にこぼれた。
「あ、後輩くん」
先輩はポケットティッシュをとり、僕の口元を拭いた。
「かぼちゃ、ついてたよ」
「あ、ありがとうございます……」
「慌てなくても食べ物は逃げないよ」
ふふっと先輩は笑う。
「私も食べたくなってきちゃった。一口ちょうだい?」
先輩は口を小さく開けて待機する。
これは……断れないな。
僕は渋々、先輩にあーんをした。
「おいしい〜」
先輩は満足げだけれど、僕は学生カップルみたいなやりとりに赤面して沈黙した。
でも、どうしてだろう。
先輩といると騒がしいのに、落ち着くんだよな。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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