115.三題噺「天国と地獄、万有引力、非常識」

 今日は夏休み明けの登校日。

 始業式が終わった教室で、僕は隣の席に座る同クラさんを見た。

「どうしたの? さっきからずっと祈ってるけど……」

 同クラさんは僕を見て、不安げに半袖で露わになっている二の腕を触った。

「この後、席替えでしょ? いい席になりますようにって神様にお願いしてるの」

 同クラさんはかなり必死だ。

「いい席って、後ろの席とか窓際のこと?」

「それもあるけど……。君の近くがいいな、って思ってて……」

「それは〜……。たぶん、大丈夫だと思う」

 僕は同クラさんの心配は杞憂になるという漠然とした確信がある。

 なぜなら……。

 席替えが終わり、教室は天国と地獄の表情入り混じったカオスな空間になった。

 みんな、いい席になったら嬉しいし、嫌な席は嫌なんだろう。

 そう思う僕の座席位置は変わらず、同クラさんは右隣が左隣になっただけだった。

 左隣から「よかったぁ、ほんとによかったぁ」と安堵する声が聞こえる。

 非常識とは正反対の同クラさんはきちんと神様に「ありがとうございます」とお礼を言っていた。

「言ったでしょ? 大丈夫だって」

「また隣の席になれてよかった〜。よろしくね」

 これも最早定番の会話になったな。

 本当にすごい。
 今回も合わせて席替えは3回あったのに、同クラさんはずっと僕の隣だ。それが左右かの違いしかない。

 まるで万有引力で引かれあっているみたいな運命力だ。

 そんなオカルト話なんてありえないから、偶然だと思うけど。

「君がよかったら一緒に帰らない?」

 いつも通りの柔らかな笑みに戻った同クラさんから誘われて、一緒に帰ることになった。

「8月いっぱい休みでもよかったのにね」

「先週から学校始まったとこもあるからうちは長いほうなんじゃないかな」

 でも……。と言って同クラさんはふわぁと口を抑えて欠伸をした。

「生活リズムを戻すのが大変だよ」

 滲んだ涙を指で拭っている。

「同クラさんはずっと夏休みがよかったって思う人?」

「うーん。どうだろうね」

 そう言って、同クラさんは後ろ手を組んで僕を見る。

「また明日、って約束してくれる?」

「ん? そうだね。学校で会うし」

「そっか……。それなら学校始まってよかったかな」

 僕が首を傾げていると、同クラさんに「わからないかぁ」と笑われた。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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