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116.三題噺 「魔法使い、日の目を見る、マスタード」

 休み時間、先輩が教室にやってきた。

「後輩くんは魔法使いになれたら何する?」

「いつもいつも唐突ですね」

 先輩は僕の前の席に跨って座っていて、背もたれに寄りかかっている。

 絶妙に見えそうで見えないという奇跡みたいなことが起こっている。すごい。
 これはもはや魔法じゃないだろうか。

「先輩は何かしたいことあるんですか?」

「私? 私はね〜」

 先輩は僕のペンケースからマスタードイエローのペンを取り出して杖みたいに振って魔法少女モノのアニメの呪文を唱えた。

「空を飛んだり、雲の上を歩いたり、お菓子の家を作りたいなぁ。あとあと、いくら食べても太らない体質になりたい」

「ファンタジーなのに最後は現実的ですね」

「女性の死活問題だからね。後輩くんは?」

「僕は……」

 ロマン溢れる魔法が色々浮かんでくる。

 思春期の男の子としては右手が疼くをリアルでやってみたいし、目に魔法陣とかかっこよさそう。

 でも……。

「空間魔法で重たい荷物を収納したり、天候を操る魔法で大事な日を晴れにしたいです」

「むぅ。夢がないなあ」

 先輩は柔らかいほっぺを膨らませて自分で潰すことで不満を解消させていた。

「流行り物みたく魔法で無双とかしたい年頃じゃないの?」

「強い魔法は現実世界でそうそう日の目を見る機会なんてないですから」

「転移なら寝坊しても一瞬で学校だよ?」

「あ、それはいいですね」

「わかってくれた? それなら無双も……」

「しません」

「えぇ〜」

「先輩は僕に無双させたいんですか?」

「いや、別に? 後輩くん無双の異世界転生ものとかおもしろとは思ったけどね」

「なんなんですか……」

 僕は無双はしたくない。
 どちらかといえば注目されずに静かに暮らしたい。

「あはは。後輩くんは恋愛面で無双してるから、いまさら魔法は必要ないよね」

「え? 僕、モテませんよ?」

「どの口が言ってるのかなぁ?」

 先輩は憎々しげな目で僕を見て、唇をつんつんしてきた。

 そんなことをするものだから正気に戻って慌てて手を引くことになる。
 勢いでしてしまって恥ずかしくなったのだろう。僕も恥ずい。

 でも、モテないのは本当なのにな。

「そろそろチャイム鳴りますよ。教室戻らなくても大丈夫ですか?」

「休み時間10分って短い……。もっと、後輩くんと話してたかったなあ」

 嵐のような先輩はとぼとぼ帰って行った。

 僕は魔法なんて使えないから、授業中に先輩にメッセを送って励ました。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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