185.三題噺「大間違い、電撃、地下」
廊下を歩いていると、先輩がいた。
「あ……」
僕は顔を逸らして早足でその場から逃げた。
好意を改めて自覚した今、先輩と会うことが恥ずかしい。目も合わせられない。
「むぅ。後輩くんめ。無視するなんて酷い」
背後で先輩がそう呟いていたことには気づけなかった。
「後輩くん!」
次の休み時間、先輩が教室にやってきた。
「す、すみません。トイレ!」
「えっ!? 後輩くん!?」
僕は静止の声も聞かずに、電撃の如き勢いで走り去った。
その後も先輩が教室へ押しかけてきては、僕が逃走するということが続いた。
そして放課後。
「もう逃さないからね!」
流石に一日中逃げ切ることは不可能だった。
僕は腕をがっしりと掴まれ、先輩の占拠している空き教室に強制連行された。
「むぅ〜……」
先輩は腰に手を当て前のめり。
ほっぺを膨らませて僕を見ている。
僕は沈黙したまま。
「!?」
突然、先輩は僕の頬を挟み、強制的に見つめ合う形にした。
「私をちゃんと見て?」
見つめ合う。綺麗な瞳が揺れている。
「私、いつも通りの後輩くんがいいな……。何かあった?」
「避けるようなことして、ごめんなさい」
「ううん。謝らなくていいよ。でも、理由を教えてくれたら嬉しいな」
「それは……」
先輩のことが好きだ、なんてまだ言えない。
僕の反応を見て、先輩はひとつ頷いた。
「話せるようになったら教えてね?」
「……言えなくて、すみません」
「もぉ〜! だから謝らなくてもいいの! そんなことで怒ったり、後輩くんを嫌うと思ってるなら大間違いだからね?」
先輩は「む、むしろ、好き……。というか……」と何かを呟いた。
でも、僕は先輩を悲しませてしまった。
罪を償いたい。地下労働も厭わない所存だ。
「け、けどっ!」
反論しようとしたら、先輩は僕の唇に指を当て、強制的に続く言葉を塞いだ。
「じゃあ、後輩くんの時間を頂戴?」
先輩はそう言って小首を傾げる。
「もちろんです!」
「言ったね? 覚悟しててね?」
その後、僕は限界を迎えるまで先輩に引き摺り回された。
荒療治のおかげで普段通りに先輩と話せるようになったのはよかった。
帰宅し玄関を開けると、お冠の妹が仁王立ちしていた。
やばい、夕飯の時間を過ぎていたようだ。
僕は即座に土下座をした。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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