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174.三題噺「ソロ、修正ペン、玉突き事故」

 放課後、僕は先輩と一緒に下校していた。
 駅のホームで電車を待つ。

「はぁ……」

 疲労感からため息をつくと、先輩が顔を覗き込んできた。

「後輩くん。元気がないぞ〜?」

「先輩のせいですからね」

 なぜ疲れているのかというと、文化祭用に先輩が作った段ボールの勇者セットを装備したRPGごっこに付き合わされたからだ。

 ソロ冒険してくれたらよかったのに、と思わずにいられなかった。

 途中からはRPGごっこなのにいつの間にか仲間が猿犬雉になっていて、同クラさん、後輩ちゃん、マカロンくんを巻き込むまでに発展していた。
 あれは完全に桃太郎だった。

 最終的に先生に見つかり、鬼の形相で怒られたのだ。

「鬼は退治できなかったよ」

「僕まで怒られることになるなんて……」

「でもでも後輩くんも楽しかったでしょ?」

 それは……。まあ……。否定できない。

「あ、電車来たよ!」

 僕は先輩と一緒に乗車する。

 帰宅ラッシュの時間だから車内は混雑していた。
 適度な距離感で僕と先輩は車内の中ほどに立ち、揺られる。

「きゃっ」

 電車が停車した勢いで玉突き事故が起こり、先輩がよろめいた。

 僕は慌てて先輩の手を掴み、支える。

「ありがとう」

「どういたしまし……っ!?」

 駅に到着したのか、一気に乗客が増え、僕と先輩は隅に追いやられた。

 先輩は壁に背をつけ、僕を見上げている。

 僕は先輩が辛くないよう、頑張ってスペースを作っていた。

「く、苦しくないですか? 先輩」

「大丈夫……」

 よかった。
 けど、僕は体を支える腕が辛くなってきた。

「後輩くん、寄りかかっていいんだよ?」

 先輩はするりと僕の腰に手を回し、引き寄せた。

 頬と頬がくっつくような至近距離。
 抱きしめ合うような体制だ。

「んぅ」

 僕の右耳に先輩の吐息がかかる。

「っ……」

 苦しくて僕が息を吐くと、先輩がびくっと震えた。

 ようやく駅に到着し、急いで下車する。

 先輩は右耳を押さえて、熱っぽい視線で僕を見ていた。

 過去を修正できる修正ペンのようなものがあったら、僕は真っ先に今あった出来事を修正するかもしれない。

 当然、そんなことは不可能だ。
 気まずい空気のまま先輩を家まで送った。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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