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112.三題噺「粋な計らい、塩分、敬語」

 生徒会長の俺は、先生の家に来ていた。

 食卓には手料理が並べられているが、先生の前にはあるものが無かった。

「今日はお酒飲まないんすね」

「休肝日なんだ。酒飲みとして健康に気を遣っているんだよ。とはいえ、いつもの癖で塩分は摂ってしまうのだがな」

「自己管理をしっかりしてるん……ですね」

「どうして言い直したんだ?」

「失礼かなって。俺、先生に対して不器用な敬語しか使えないじゃないっすか。だから」

「そんなことはないさ。極論を言ってしまえば、敬語は敬意を伝える一種の言語の飾りだ。不器用な敬語でも、君の言葉から私のことを大切に思ってることは十分伝わっているよ」

「そ、そっすか……」

「おや、照れたのかい?」

「直球で褒められたら誰だって照れますよ」

 先生は頬杖をつき、俺に温かい眼差しを向けている。

 屈んだせいでオフモードの先生の胸元が緩み、ちらっと胸元が見えてしまった。

 見ないようにと目を逸らすも、それを察した先生がニヤニヤしているのが横目で見えた。

「気になるなら見てみるか?」

 先生は胸元を指してアピールしている。

「じょ、冗談きついっすよ。女性はそういう視線を男に向けられるの嫌でしょう?」

「全てがそういう訳ではないぞ。優越感を感じる場合だってあるさ」

「例えばどんな時っすか?」

「まず、スタイルに目が行くのは男性だけじゃない。女性とて同性の優れた体には目がいくのさ。そういう視線は嬉しいものだな。私の場合は均衡のとれたモデル体型、とでも言えばいいかな。そういえば、私は大きなおっぱいを無意識に追っかけてしまうな」

「お、おぱっ……!?」

 先生の口からそういう単語が出たことに動揺してしまう。小学生じゃあるまいし。

 先生は案の定笑っていた。恥ずかしい。

 夕飯をご馳走になり、たっぷり先生に弄ばれたあと、帰ることになった。

 男性といえど夜道は危険だからとタクシーを呼んでいると伝えられた。

 こういう粋な計らいをサラッとできる所が本当にずるい。

 俺が密かにいじけていると、先生は言った。

「落ち込んでるようだからおまじないをしてあげよう。屈んで目を瞑ってくれないか?」

「……? こう、っすか?」

 俺は言われるがまま従った。

 おでこに手の感触がして、前髪がかき上げられる。
 次に来たのは、暖かな、少し湿り気のある柔らかな感触だった。

 驚き、目を開けると先生の顔が間近にある。

「……今の、って」

「内緒」

 先生は唇に人差し指を当てて、ウインクをした。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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