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110.三題噺「ラップ、アドレナリン、金儲け」

 僕は先輩の家にやって来た。
 今日は手料理を振る舞ってくれるらしい。

「いらっしゃい。後輩くん!」

 インターホンを鳴らすと、エプロンをつけた先輩が出迎えてくれた。

「お、おじゃまします……」

「あれ? 後輩くんガチガチだけど緊張してる? 看病してくれた時に来たのに」

「あの時は、必死で……。今は緊張でアドレナリン分泌されてます」

「あははっ。私と後輩くんの仲なんだから気楽でいいのに。そういえば、その節はご迷惑をおかけしました」

 先輩は深くお辞儀をした。

「いえ。普段お世話になってるお礼です」

「今日は張り切って作ったからたくさん食べてね!」

「堪能させていただきます」

 先輩のエプロン姿。いい。
 出迎えてくれたのも新婚気分になれて幸せだ。

 こんなこと先輩に言ったら引かれそうで言えないけど。

 先輩の案内で食卓につくと、たくさんの料理が運ばれてきた。

 ラップがかけられてるから作って待ってたんだろう。

「きっと美味しいと思うよ」

 先輩は僕の前に座って、にっこり頬杖をついている。

 素直に嬉しい、けど……。ハート型が目立つなぁ。

 ハンバーグは当然のようにハートだし、サラダに乗ってる茹で卵もハートだ。

「胃袋をがっちり掴んで私に夢中になってほしいからね」

 プレッシャーで何を言ってるのか分からないまま、僕は料理を口に運んだ。

 一口、口にして固まった。

 頬に一筋の涙がこぼれたことに、遅れて気がついた。

「もしかして、塩気強すぎた!?」

「いえ、美味しすぎて感動しちゃって……」

「ほっ……。それならよかった」

「お店開いてお金儲けできるレベルですよ」

「えへへ。褒めすぎだよ」

「先輩と結婚する人は幸せですね」

「け、結婚!?」

「だって、こんな素敵なご飯が食べられるんですよ?」

 あ……。今は男性側も作る家庭もあるからそうでもないのか……?

「照れちゃう……」

 僕の拙い褒め言葉でも先輩は喜んでくれた。

「気になってたんですけど、どうして……ハート型なんですか?」

「……え?」

 あれ、もしかして気づいてなかったのかな。

「ご、ごめん。無意識だったみたい」

 そっか……。他意はないんだ。残念。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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