見出し画像

165.三題噺「跳梁跋扈、隣町、有頂天」

 文化祭前日の今日、僕は騒がしい校内をほぼ走っているような速度で歩き回っていた。

「後輩ちゃんはこっちの確認をお願い!」

「わ、わかりましたっ!」

 生徒会の各メンバーに指示を出したから、僕も自分の仕事をしないと……。大忙しだ。

「こうはいくーん!」

 廊下を疾走する先輩。
 段ボールで製作した勇者セットを身につけていた。

 今更だけど、何故この人は野放しにされているのだろう。
 よく、この学校が悪人がのさばるような跳梁跋扈の世界にならなかったな。

 先輩は普段は破天荒な行動が多いけど、思いやりがある人だ。
 迷惑をかけることなんて絶対にないから、何かあったのかな。

「同クラちゃんが困ってるみたいだから時間があるときに行ってあげて」

「分かりました。すぐいきます」

「いってらっしゃい。無理しないでね」

 先輩に見送られ、自分のクラスへついた。

「同クラさん、困ってるって聞いたんだけど、どうしたの?」

「ご、ごめんね。急遽必要な材料があって……。でもお店があるのが隣町で……。他の学年とかクラスに伝手がないかな……?」

 確かにそれは困ったな。
 行って戻ってくる頃には夕方になってしまう。それから作業するとなると夜だ。

 僕は頭を回転させた。

「あ! 三年生のクラスで使ってたはずだから融通してくれるよう頼んでみるよ」

 たしかマカロンくんの友達がいたはずだ。

「ほんと!? ありがとう!」

 同クラさんに何度も頭を下げられて、止めるのが大変だった。

 仕事がひと段落し、人気の少ない体育館脇の小階段に座り、一息つく。

「お疲れ様です。先輩」

 いつの間にか背後に後輩ちゃんがいた。

「水分補給も忘れないでくださいね」

 そう言ってスポーツドリンクを渡された。
 後輩ちゃんはスカートを抑えて隣に座る。

「先に言っておきますが、これはお礼なのでお代はいらないですよ」

「お礼?」

「先輩がたくさんフォローしてくれたから、パニックにならずに動けたので」

「そんなことないくらい優秀だったよ」

 後輩ちゃんは、ううんと首を横に振った。
 髪の毛がサラサラと流れる。

「先輩が先輩でよかった。いつかは先輩を支えられるようになりたいな」

「それはちょっと寂しいな」

「……え?」

「後輩ちゃんにはずっと僕を頼りにしてほしいし、近くにいてほしいからさ」

 後輩ちゃんは言葉にならない声をあげて有頂天になり、足をジタバタさせた。

「そ、そんなこと言われても。う、嬉しくなんてないんですからっ……!」

 隠し切れてないところが可愛いと思った。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
⤵︎
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?