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173.三題噺「電撃、おじいさん、スキャンダル」

 放課後、僕は用事があって図書室に来た。

 誰もいないと思ってたら、同クラさんが本を読んでいた。
 西日が当たる横顔は神秘的な美しさがあった。

「同クラさ……」

 声をかけようとしたけど、本に夢中みたいだ。流石は文学少女。本の虫だ。

 邪魔しないようにひっそり息を潜めて、僕は自分の用事に取り掛かる。

 何事もなく、僕の用事が終わったところで、同クラさんに挨拶くらいはしようと周囲を見た。

「っ〜〜〜〜!」

 同クラさんは本棚の一番上にある本が気になるらしく、背伸びして取ろうとしていた。

 プルプル足が震えてるし、辛そうだ。

 僕はそっと近づき、後ろから取ってあげた。

「あ、ありがとう」

 同クラさんは恥ずかしそうに胸に本を抱えた。
 豊かなそれが形を変えているため、僕は、視線を逸らす。

「あ」

 視線は同クラさんの顔の真横で止まる。
 この本、読んでみたかったんだよな。
 僕は手を伸ばす。

「えっ……、えぇ……!」

 本に手が触れたときだった。

 僕は今更自分の体制と、同クラさんとの距離を自覚した。

 これじゃあ、まるで人気のない図書室の隅で壁ドンしてるみたいじゃないか。

 メガネ越しの瞳は潤み、ぷるっとした唇のみずみずしさがはっきりとわかる。

 僕は言い訳を捻り出すため、かつてないほどの集中状態になった。

「ちょ、ちょっと腰が痛くて……あはは」

 僕はポンコツだ。言い訳が嘘くさすぎる。
 腰が痛いとか、まるでおじいさんみたいじゃないか。

 見つめ合って三秒。
 同クラさんが僅かに体勢を変え、僕の頭に物理的な衝撃が走った。
 急なそれは電撃をくらったみたいだった。

「痛っ!」

 上から本が降ってきたのだ。

 同クラさんが動いた表紙にうまく本棚に収まってなかった本が落ちてきたんだろう。

「だ、大丈夫!?」

 頭を押さえてしゃがんだ僕を、同クラさんは心配そうに見ている。

 ちょっとコブになるくらいだから心配しなくてもいいのに。

 そう思っていたら、今度は違う刺激が頭を包んだ。

「い、痛いの痛いの飛んでけ〜!」

 同クラさんは僕の頭をさわさわと撫でた。

「あ、ありがとう……」

 同い年の女の子に頭を撫でられる機会なんてそう多くはない。
 僕は動揺がバレないうちに立ち上がった。

 なんにせよ、誰かに見られなくてよかった。

『生徒会長、文学少女と図書室で相引き』なんてスキャンダルになるところだった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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