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86.三題噺「スルメイカ、頭蓋骨、コンソメ」

 空は完成されたという語源を持つコンソメのように琥珀色の夕焼けだ。

「あれ? 先生だ」

 スーパーへの買い出し帰りなのか、先生は両手に重そうなエコバッグ持っている。

「こんばんは。先生、ひとつ持ちますよ」

「ああ、君か。別にこのくらい……。って、いいって言ってるだろう?」

「普段、お世話になってるので」

 僕はひとつ奪うような形で持った。

「君たちは、ほんと優しい男だな」

「なんか言いました?」

「いいや。何も」

「かなりの量ですけど何買ったんですか?」

「当然、お酒や、つまみのスルメイカさ」

「飲んでばかりじゃないで食べてますか?」

「人並みには作って食べてるぞ。それよりも酒を飲んでいる時間の方が多いだけだ」

「誇るところなんですね」

「ああ。ところで、君の恋愛の進展はあったのか?」

「うっ……」

「その様子だと会ってはいるが、進展はないようだな」

「先生に協力してもらってるのに、不甲斐ないです」

「気に病む必要はないさ。恋愛はとても難しい。君のペースで進めばいいさ」

「……教師っぽいこと言いましたね」

「そりゃ、教師だからな」

「恋愛が難しいって言った時、すごく実感篭ってるように感じたんですけど、気になってる人とかいるんですか?」

 僕はマカロンくんのことを思い浮かべ、少しだけ探ってみることにした。

「いるが……。難しいものだよ」

 先生の横顔は、とても大切な人を思い、悩んでいる表情だった。
 深い愛情と思いやりが滲み出ていて、その分の苦悩もあるみたいだ。

「深くは聞かないことにします」

「そうしてくれ。君では荷が重いだろう」

 先生は「ここまででいい」と言って、僕の持つエコバッグを奪った。

 先生に頼ってもらえないことが少し寂しい。
 協力してもらってる分、何か返したい。

「そんな顔をするな。君が思うより、私は君のことを頼りにしてるぞ」

 両手の塞がった先生は肩で僕を小突いた。

「夏休み中にみんなで合宿でもするか?」

 先生の提案に、僕の頭蓋骨に稲妻が走った。

「はい! 絶対しましょう!」

 参加者は、いつもの6人。
 名目上は生徒会の懇親会、兼、卒業旅行だ。

 日程は後日みんなで調整することになった。

「そういえば、高校生男子が年上の女性に魅力を感じる時ってどんな瞬間だ?」

「え? なんでそんなこと聞くんですか?」

「君はその方面では本当にポンコツだな」

「???」

 僕は首を傾げつつ、先生の背中を見送った。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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