見出し画像

民主的運営とは―自己啓発・組織運営に効く文化人類学入門#13

第7章 組織運営文化人類学(続)

 組織を運営して行くときに、何に気づいていなければならないか、特にリーダーが何を心がければならないか、その続きです。

民主制を構成する三要件

 組織を運営して行くときにもう1つ大切なことがあります。

 それは、民主的であるかという問題です。

 もちろんファミリー企業など、組織のある部分について民主的でない運営をしているケースもあるでしょう。

 しかし一般的なこととして、組織は民主的でないと、メンバーに不満が溜まってきて、以下の社会を構成する3つの要素がバランスを失って行きます。

 民主的である条件には3つあると言われます。

1  規則 ルールが最高であること。責任者がどれだけ権限を賦与されても、ルールは踏み越えないこと。

2  人格 権力が人格の尊厳を脅かさないこと。人格の尊厳にまで踏み入らないこと。

3  決定 構成員が意思決定に参加できること。直接的であるか間接的であるかは政治形態によってさまざまであっても、どこかで参加できるプロセスがあること。

 会議をして民主的な運営がされているように見えても、問題はそこに働いているダイナミズムです。

 一時期、中東を民主化することについて論じられた時期がありました。そのコンテクストで、この3つの要件が話題になりました。

 中東の場合、文化を考えたときに、民主化することは簡単ではないし、民主化という言い方が大義になっているという議論もありました。

 組織がギクシャクするときには、この3つのどこかに問題があった可能性があります。

 民主的な運営は必須です。そのためには、相互尊重の精神が醸成されなければなりません。

 チョットしたことです。大切なのは、

「聞く」ことであり、「聴く」ことです。

 ヒント 信頼されるためにはチョットしたこと。それは聴くこと。

カチンときたら自分を褒める

 メンバーから要望が出されるとき、リーダーはそれをどう受け止めているでしょうか。

 カチンときますか。

 一生懸命やって来られた人ほどそうでしょう。

 カチンとくるくらい、頑張ってきたのです。自分にご褒美を上げましょう。

 しかし、気を取り直して聴いてみたら、どういう声が聞こえてくるでしょうか。

 現場から要望が上がってくるときには、実はかなりの時間が経っています。

 その日の思いつきで、好き勝手なことを言う人はそれほどいません。

 要望が出るときには、メンバー同士でかなり話しが広まっています。

 その上で、メンバーの代表的な人が出して来ます。

 まわりから「あなたなら言えるから」などと言われて、勇気を出して言ってくるのです。

 そのような場合は、聴いて、よほど間違っていない限り実現したほうが組織はうまく行きます。

 ヒント 人に言われてカチンときたら自分を褒める。それくらい頑張ってきた証拠。

 何かを言われて気持ちよい人などいません。

 しかし、どうでしょうか。

 今までメンバーの本音が聴けていたでしょうか。ここはひとつ、グッと、譲ってみてはいかがでしょうか。

 そういう場面こそ、メンバーと信頼関係を構築するチャンスです。

 ヒント 現場から要望が出たら、信頼をグッと引き寄せるチャンス。感謝する。

いけないパターン

 一番いけないのは、決める時にはそれなりのリーダーシップを発揮し、会議で自分の考えを認めてもらい、うまく行かなかったときにスッと責任を逃れる姿勢です。

 権限だけ行使して責任を取らなければ、信頼されることは永遠にないでしょう。

 逆です。決める時には民主的に合意し、問題が起きたときには自分が責任をかぶる、そうしたら関係はうまく行くかもしれません。

 ヒント 権限が委ねられた者は責任を負う。リーダーは潔く泥をかぶる。

リーダーシップの3要素

 リーダーの役割には3つあります。以下の3つです。

1  現状を把握する。
2  方針を示す。決断する。
3  誤解されることを受け入れる。

 第1に、状況把握です。

 組織がどういう状況なのか。メンバーは何を感じているか。ここで文化人類学人間の本領発揮です。

 あくまでも相手の視点で考えます。組織全体の雰囲気を読み取ります。

 第2に、方針を示すこと。決断することです。

 民主的であることは必須ですが、「みなさんのお考えで」という姿勢だけでは、リーダーとしての信頼を得ることは難しいでしょう。

 方針のないリーダー、責任を負わないリーダーという見方をされます。

 ある会社経営者が、こう言っておられました。

 「責任者の仕事は、全体の方針を示すこと。あとは現場に任せること。社長は、ボルトは締めません」

 そのために、第1のステップ、現状を把握することは決定的に重要です。状況が読めなければ、方針は出せません。

 第3に、誤解されることです。

 人から理解されないこと、誤解されることがイヤならば、リーダーはやめたほうがイイです。

 誤解されて黙っていることは簡単なことではありません。

 正しいことをやって悪く言われる。もちろん、自分の資質に足りないことがあったからかもしれません。ですから、自分を振り返る視点は欠かせません。

 しかし、どれだけ自分を吟味しても、正しい選択をした。それでも、それを逆手に取られ、悪く言われることもあります。

 正しいことをしたから悪く言われることもあります。

 そういうときは、わかってもらうのはやめようと決めます。

 しかし、そういったことを続けていると孤独になります。

 ですから、リーダーは自己ケアが必須です。本音を打ち明けられる仲間も必須です。

 ヒント 全部わかってもらったらリーダーではない。自己ケアは必須。

リーダーはどれくらい実務に関わるか

 組織の規模によって、リーダーが何をしなければならないかは変わってきます。

 実務を何から何までやらなければならない規模もあります。そのことで、模範を垂れる必要があります。

 しかし、組織が大きくなっていったら、少しずつ役割分担が必要になります。

 一見動いているように見えても、メンバーの中に不満が溜まってきます。

 大胆な権限委譲によって積極的に取りまとめ役を立てて行くべきでしょう。

委ねて丸投げしない

 ところが、実務をメンバーに委ねて行くとき、一つ大切なことがあります。

 委ねるからといって丸投げはダメです。

 たえず関心を持ち、心理的サポートをします。

 万が一欠けがあったときには、リーダーが補います。

 次に会ったとき、「やっておいてあげたよ」などと言わずに黙っておくのもリーダーの知恵です。

 ヒント 委ねても丸投げはダメ。信じて見守る。

自分がいなければ動かない?

 リーダーは不安になります。

 自分がいなくて組織が動かなくなるのが怖い、なんて思っていませんか。

 実際、責任者がいなくなれば組織は動かなくなります。

 しかし、本心はそうではありません。

 自分がいなくて動いてしまうのが怖いのです。

 もし、自分がいなくて組織が動かなくなったら、組織全体のありよう自体を考え直さなければなりません。

 メンバーの能力が活かされていなかった可能性があります。

 もし自分がいなくて動いたら、組織はさらに成長できるチャンスかもしれません。

 ある程度の規模になれば、実務は自分がいなくても動くようにしておくべきです。

 ヒント 自分がいなくて動かなくなるのが怖い。でも本当は動くのが怖い。

リーダーはバックアップする

 これが、文化人類学的リーダーシップです。

 リーダーは全体の方針を示し、それがメンバーにある程度納得されて行くことです。

 その上で、部署ごとに取りまとめ役が立てられ、それぞれがいきいきと機能して行けるように、リーダーは心理的なバックアップにまわります。

 一度「任せます」と言ったら、結果がどうであっても、「本当にありがとう」と感謝を表明します。

 任せると言っておいて実務に口を出すこと、結果について注文をつけることはいちばんしてはいけないことです。

 指示を出して文句を言っていたら、次から本気ではやってもらえなくなります。

 信頼も逃げて行きます。

 ヒント 委ねると言ったら口は出さない。

 部下は信頼されるとイキイキと仕事ができます。

 「任せるよ」と言ってもらって、自分を信じ抜いてくれたら、意気に感じて仕事をします。

 リーダーが信じて委ねれば、メンバーもリーダーを信じようと考えます。

 信じるから信じてもらえるのです。

 むのたけじ氏のことばを引用します。

 信じれば信じられるとは限りません。しかし、こちらが相手を信じることなしに、相手に信じられることはありません。愛すれば愛されるとは限りません。しかし、相手を愛することなしに、相手に愛されることはありません。  (『詞集たいまつⅠ』、評論社、2007年、p.151)

 続く ―次回も、組織運営文化人類学の続編、第3回です。


サポートしていただけると大変嬉しいです!