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スワンの道





優雅にスワンが泳いでいる。

透き通るような湖畔を

ぷかぷかと

優美にいつまでもどこまでも。



あぁ、、なんて美しい。



アフタヌーンティーには
もってこいの景色。















…そんな成績表だった。





























パタン。



















すげぇのぉ。




















22……2…22…リーチ!!!

…………1…


くそぉーーーーー!

家庭科がどうしても1だった。

どうにも玉留めが
所定の位置から7cm程ズレてしまうようだ。

料理も素材そのままでいた方が圧倒的に美しかった。

もはやこの不器用さは
芸術と呼ぶのかもしれない。


体育は好きだったが
夏の水泳が嫌すぎて、
水着が小さいという理由で一切入らなかった。
(ただこの件については思春期の子供に強いる教養なのだろうか、一度議論されてもいい気がする)



「英語なんか出来んでも生きていける」
こぞって男子がよく言っていた。
クラスの流行語だった気もする。

この言葉を疑う事なく、ノールックした。
私が最後に覚えた英単語は確かdishだったと思う。
お皿だけを引っ提げて社会人への道のりを歩いていくことになった。

とんでもチクチクフラワーストリートだった。

いばら道だった。



そういえば少女漫画ギャルズの
寿蘭ちゃんもオール2だった。
だとしたら
私は田舎のカリスマ中学生なのかもしれない










……。











成績とはなんのためにあるのだろう

好きでした事なのだとしたら
結果なんてどうでもいいだろう

どれだけ出来ようが出来まいが
好きなら最下位でもいいだろう

ま、どうでもいいけど
"成績が必要だから"
好きになれないような気がする
だから
一夜漬けで覚えたことを吐き出すのがテスト
という奇妙な行動が生まれる


あ、勿論私がですよ。



保健室でサボっていたら
ヤンキー先輩が来て、
トイレットペーパーを保健室中にばら撒いていた

これと同じくらい
その意図と意味をやっぱり見出せない。











自慢じゃないが、人よりも
たい焼きは頭から食べた方だ。

足が速くなる願いを捨ててでも
頭から食べた。


そのおかげか、
成績に悩んだことは一回もないし、
成績で両親に叱られたことも全くない。

というより、
家で勉強を教えてもらったことが
一度たりとない。
というより、
父はそもそも活字があまり読めない。


学生時代の父の写真を見る限り、
リアルなビーバップハイスクールスチューデントだったということだけは理解できた。
勉強の苦手な父だったが、
私の成績表を必ず開いて確認していた。

見るところは決まっている。
右端のおまけ程度につけられた項目の、

・他人を思いやることができる



これに○がついているかどうかだった。
































パタン。





































すげぇのぉ。











成績表を閉じた父は
決まってそう言っていた。














トクトクトクトクッ。

シューーーーーーッ。
















この日も相も変わらず
安い焼酎の炭酸割を飲んでいる。



父が私に言う。





















"わしゃぁ
勉強のこたぁ、ひとっつも分からん。
そねーなこたぁ
要る時にすりゃぁええけぇ。

せーより、人の気持ちが分かる人間になれぇ。

へーでいつでも守っちゃれぇ。

それが出来りゃぁ勉強やこぉ
なんにも出来んでめぇけぇ。"


(爆裂方言に注意)














アヒル デ フィーバーな
成績を叩き出しておきながら、



ドヤ顔で

"んなもん、らくじゃ!"
(そんなの容易い御用だ!)

と言った。




























銀色の長細いアルミのコップ。

まだシュワシュワと音を立てる焼酎の炭酸割にレモン汁を数滴加え、

もう一杯。


























"まぁ好きな事ぉ、好きなだけせぇ。
なんでも、
なんぼでも出来らぁ。"


























コンッ。



















父は酒を置き、
エレキギターを手に取った。




ここがえんじゃ〜!



と言って、

当時のauリスモからダウンロードした、
GREENDAYの曲に合わせてギターを弾いていた。

そういえば楽譜も読めないと言っていた。
1度聞けば、たいていの曲は弾いてくれたので楽しかったが、
今思うと音感の感覚だけで奏でる
父のリードギターは凄まじかった。


その音を聴きながら
残っていた父のつまみの
6Pチーズを食べ尽くした。


我が家では成績なんて
そんなもんだった。































同刻、
友人は成績表を渡すや否や
両親にこっぴどく叱られ、

ケータイを買ってもらう契約が来年度に延期された挙句、
門の限が早まった。








翌日、そう伝えた友人の声のトーンは
恐ろしく低かった。
涙目の友人にどう声をかけていいのさ分からない。
頭のいい家系とは大変だ。
成績という等価交換の代償があまりにもデカいからだ。













勉強は出来なくてもいいが
友達を守れと言われた私と
勉強ができなければ友達との時間を削ると言われた友との

ふわふわとした会話が始まった。



















お、お父さんも心配なんじゃわ!


でも、あれ、あれよ、あれ……

…あのーーー。

⚪︎⚪︎ちゃんの持っとる、ファ、ファービーがあるがん!!

あれ、か、か、か、可愛いな〜

私ん家は金ないしさ〜、
う、う、羨まし〜〜っ!



















…うん。










パ、パソコンからメールできるがん!
も、問題ないでしょ〜!!







…使っていい時間も短くなったんよ。











そうなん…

えっとーーーーー
え、えっとー…












okiはどうだった?
















えぇ…ぇぇぇーっとぉぉーー


ま、まだ見せてないよ〜!

こ、こ、こ、怖いなぁぁぁ…













そっかぁ…











持てる力の全てを出したが、
差し伸べたその手が短すぎた。



他人を思いやれるスワンの道は
容易くなかった。

oki

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