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13歳と33歳がB'zの『さまよえる蒼い弾丸』に背中を蹴っ飛ばされた話


1998年

中学校に入学してすぐ。

子どもながらにやっぱり色々あるわけで。
心に抱えるモヤモヤ感と、単純に好きなのとで買ったばかりのB'zのニューシングルを延々リピートしていた。それはもう何度も聴いていた。

今はもう無い8cmシングル。いや、なんだよ8cmシングルって。
何この細長い形。何この下側のプラスティックだけの部分。
なんでこの形だったの。めっちゃ保管し辛いじゃないの。

【だからその手を離して】から【ギリギリchop】までの26枚、全部実家にあるぞ。

話が逸れてしまったが、一気に人が増え、新しくなった人間関係。
今までとは違う先輩・後輩の在り方。
部活も始まりテストをすれば成績順が解るように。
おかげでずっと通っている塾の雰囲気が違ってきた。
わずか数か月で目まぐるしく変わった環境。

「う~ん、色々面倒くさい」

現実逃避も兼ねてB'zを聴きまくっていたわけで。
中でも4月に発売されたばかりの疾走感のあるニューシングルは、ここぞとばかりにヘビロテされていた。
2nd beatの『Hi』も続けて聴く。こっちはこっちで好き。

そんなこんなで絶賛思春期の目が冴えて寝付けない夜。

このモヤっとした何かを誰かに話して共有したくても、インターネットはそれほど浸透していなかった当時。
今みたいにメールもラインも出来ない。かと言って電話する程じゃない。時間も時間だ。
でも、このボンヤリとした心の淀みを抱えて明日を迎えるのもなあ。

リビングに移り、暗い部屋で一人。テレビを点ければ、ビーイング系列の音楽番組が放送されている時間だ(勿論録画している)。
リリースからそんなに経っていないせいだろう。さまよえる蒼い弾丸のPV(ライブver)が流れる。

その映像を、憧れと陶酔と、ライブに行ったことが無い僻みを3分の1ずつ混ぜこぜにした面倒な感情で観始めた。


繰り返し聴いているはずが、なんだかいつもより歌詞が頭の中に入ってくる。映像付きの成せる技なのか、どうなのか。しかし。

「松本さんのギターで脳が揺れるな。ハイパー格好いい大人……好き」
稲葉さんは……同じ種族じゃない。なんだこの生き物(ガチ恋勢)」

いつもの調子でそんなことを考えていたら、曲は二番に入った。

チャンネル 次から次へ変えてると もう朝が来た
落ち着く場所ありますか?って
そんなのまだいらねぇ
誰かが残していった退屈 あくびがでちゃう (ゴロゴロしちゃう)
平和というのは そんなもんだろうか そんなのアリですか?


「……あ~~~。そっか、別にいいのか」

急にストーンと腑に落ちた。

自分の環境も立ち位置も、生きてたら変わってくもんな~。
変化が無いって滅茶苦茶つまらないものかもしれない。
それに稲葉さんクラスでも「もう朝が来た」ってなるんや。
そんなもんなんだな~。


13歳の悟り。

そのあとに続く「飛びだしゃいい 泣き出しそうな 心を蹴って」のフレーズ。この日から何度唱えただろうか。

それから20年が経った。


2019年

会社員になった私は色々ありながらも、なんとなく仕事を続けていた。
仕事自体にやりがいは一切無いが給料はそこそこ良い。

なにせブラックバイトで感覚が狂っていたので「毎月定額貰える会社員ってすげえ~」って感覚のまま。
適当に稼いだお金で、適当に楽しく生きていた。

趣味でブログをやったりはしているけれど、勿論趣味は趣味。
子どもの頃イメージした尊大な人生プランとは違うし、案外普通。でもまあいいか。お金欲しいし。


そんな9月のある日。
B'zのライブの前夜、現地で合流予定の母から連絡が入った。

「爺ちゃんが倒れた」

救急車で運ばれた。今は落ち着いているけど、流石に私は明日のライブには行けない。一人で行ってきて。

いやいや、それなら私もライブどころじゃないよね。
実家に戻るよと伝えたものの「そこまでじゃないから行ってきて」「命に別状はない」とやたら推すので一先ず行くことにした。

因みにこのnoteのヘッダーを件の祖父にしている程度に好きだ。
祖父からしても「私か、祖母か」レベルで好かれてたし。

そんなわけで。余計にこの状況でライブに行くのはどうかと思ったが、その日は私の誕生日で、会場は実家の隣県だった。
だから母は行ってこいと言ってくれたのだろう。


結局、次の日の朝。親族LINEのグループトークを気にしつつ、同居人に「諸費用全額出すから行くぞ」と引き摺ってB'zを観に行くことに。
実家には始発で帰るとしよう。

広島城を覗き、隣の神社でお参りをした。祖父のことを普段から気に掛けている上、何故か解らないが異様に勘が鋭い母が大丈夫だと言い切るのだから大丈夫なのだろう。それでも気になる。

敢えてライブの間だけは、全てを忘れてステージに集中した。
B'zのパフォーマンスは頭から足の先まで感電しっぱなしって感じでカッコいい。好きだ。
二人揃って最高の年の取り方してくれてありがとう。ファンになって以来、ライブをずっと観てこれて幸せだ。

予定されていた曲が全て終わり、メンバーがステージを去る。
アンコールの声に再びステージに戻ってきて、声援が飛ぶ。
あともう少しで、何曲かでこのライブも終わりか。
そう思った瞬間、祖父のことを考えた。

今回は大丈夫そうだけど、もう長くないだろう。
人はいつか最期を迎えることを痛烈に感じ、眩暈がする。


その日、最後に演奏されたのは。
思い悩んでいた13歳の春に何度も聴いた、あの曲だった。

イントロが耳に飛び込んできた瞬間、あの頃の感覚が頭の中で爆発した。
中学生の頃、何を考えて生きてたっけ。
私がしたかったことって、なんだっけ。

飛びだしゃいい 泣き出しそうな 心を蹴って
さがせばいい 街に消えゆく 夢の切れはし
もう抑えられない 衝動(ショック)にヤられ 目が覚めたなら
旅すりゃいい そうです君は 蒼い弾丸

曲の終わりの「もっと もっと もっと もっと速く……」の声。
フェードアウトしていくギターの音。
自分の中の渦巻く感情に呑みこまれて呆然と立ち尽くし、最後の「おつかれー」ではうわの空で腕を挙げた。


その日のホテルへの帰り道。

「やっぱり私、文字が書きたい」

今までずっと蓋をしてきた感情が口を衝いた。
絵で飯を食おうと試行錯誤している同居人からは「いつか言い出すと思っていた」と歓迎された。



でも仕事を止める気は無い。ライブに行きたいし猫費用もかかる。取材旅行にだって行きたい。だったら仕事しながらでも書こう。

それから一年半。私は会社員の傍ら文字を書き続けている。
noteの記事だったり、公募だったり、オリジナルの作品だったり、ネタ系の応募だったり、旅行レポだったり、取材に行ってみたり。

とにかく書きまくって、ライター向けの叩き上げ会に参加したり、イベントに顔を出してみたりしている。

あの日のじいちゃんの異常な事態と、さまよえる蒼い弾丸。
両方あったからこそ動く気になれた。

私にとって本当に大切なのは、書いて表現する事だった。
面白がって、面白がらせることだった。
それは13歳の頃からずっと変わらない。

とりあえず、自分の好きなようにやってみよう。
らない後悔より、やってみた後悔が無い方が良いだろう。ブッチギリで。


飛びだしゃいい 泣き出しそうな 心を蹴って』


この言葉に背中を蹴っ飛ばされながら、今日もパソコンに向かう。

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