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ムダ毛との20年戦争

~これは、20年に渡るムダ毛と私との因縁の物語である~

物心付いた時、既にそこにムダ毛は居た。共存を望んだ覚えは無い。
むしろ望まない。望むわけが無い。でもなんか知らんが居た。
気が付いた時には私の肌は不法占拠されていた。

腕も足も脇も顔も。っていうかもう全身だ全身!
一体どこからやって来たのか、ムダ毛…書いて字の如く無駄無駄無駄無駄ァ!に生えてきた奴らを目の敵にし、抗い、黒い青春を過ごした。

「僕の青春はムダ毛との青春!これからその青春に決着を付ける!」

声高らかに何度も戦いを挑むも、相当しぶといムダ毛軍との戦いの歴史は既に20年を超えた。
そしてその戦いは未だ続いている。そう、未だに続いているのである。

戦いの夜明け~毛刈りのはじまりとピンセット~

その空しい物語の始まりは小学生時代にまで遡る。
成長期と共に忍び寄ってきた黒き悪魔、ムダ毛。細かい記憶はだいぶ薄れているが、この頃には既に戦いの火蓋は切って落とされていた。

小学生と言うのは手足を衣服から出す生き物である。
肌が出る、即ち毛が見える。
だがしかし。田舎の小学生だった私は太陽が出ている間は全て活動時間とばかりに外で過ごしていた。大体原始人と同じ感じだ。なので彼らの生活リズムを想像して貰うと解り易いだろう。

その辺の木の実を千切って食べ、土手から取ったイタドリを齧り、草むらに入っては秘密基地を作る。
夏はプールのはしごをし、冬は鬼が泣くレベルで本気の缶蹴りをする。
そんな風に外に居続けた為に夏の間に2度脱皮できるくらい真っ黒だった。
そして日に焼けるとムダ毛は金色に輝き、薄く見える。
故にムダ毛はすぐそばに居るが、それほど気にしなくても済んだ古き良き時代であった。

しかし、中学生になり空前の美白ブームが訪れた。

(※アネッサの回参照 https://note.com/okayuneko86/n/na271201d41ab

友人たちと『イカより白く』のキャッチフレーズの元、鈴木その子氏を教祖とした美白倶楽部の結成。
親、殺された?それとも村を焼かれた?そんなレベルで日焼けを目の敵にし、太陽を避けて生きるようになった、柱の男ならぬその子の女

マメな日焼け止めの塗布、徹底的に太陽光から肌を隠すといった努力を積み重ね、遂には色白の肌を取り戻した。
しかし喜びは長くは続かなかった。肌の白さを取り戻した代償として、14歳の私が失ったのは人としての尊厳であった。

――今までさほど気にならなかった毛が自己主張を始めた。
その毛は、異様に濃かった。

なんだこの女子中学生という夢見がちな生き物に似つかわしくない黒き衣は。どうして存在しない敵から私を守ろうとするんだ。この私がそんな軟弱な女に見えるのか。守備を頼んだ覚えは1μmも無い。

毛が、憎い。

小学生に引き続き、中学生も生足を出すのがその血の運命だ。寒さにめっきり弱くなった今では考えられないが、十代は真冬でも足を出して生きていく。そうすると黒々、ファさりとした手足の毛はめちゃくちゃ目立つ。
なんだこの量。この太さ。黒々した毛は。

こりゃもうムダ毛ってレベルじゃねーぞ!ここまで濃ければそんな温い名称では例えることが出来ない。黒王だ酷王!

おまけに厄介なことに私のムダ毛軍はただ徒らに兵の数が多いだけでなく

意識の高さ(黒い!)
強靭な肉体(太い!)
成長性A(早い!)

を兼ね備えた、何処に出しても見劣りしない一流の兵士たち。
剃刀で剃ってツルツルにしても、次の日にはブツブツと黒い塊が出来る最悪のモンスター軍団。
そのため一匹一匹、必死こいて毛抜きでモンスターことムダ毛を抜いていた。

そう言えば以前、職場で背後から「狩りに行かない?」と何の脈絡もなく誘われたことがあるモンスターハンターってこんなゲームだったんだろうか。
知らんけど。

手で、毛抜きで大草原を除草する。果てしないこの労力。
何故女子中学生の私がこんな苦労を。他の皆はせいぜい剃刀で剃るくらいでハッピーに生きてるじゃないか。
それもこれも色白毛黒の父に似たせいだ。と母に訴えたら「それは父に言え」と返ってきた。ごもっともである。

完全に余談だが、弟たちは男性ホルモン過多かな?ってレベルで毛が濃い。
彼らは『あなたのギャランドゥは何処から?』と身体の境界線について聞きたくなるくらいにボディが毛で覆われている。
私が知る中だと山田孝之に近い。あんなに男前じゃないけど。

そんな弟の部屋を掃除すると縮れた毛が無数に落ちていて、十代だった私はイラつきから「妖怪チン毛散らし」なるあだ名で彼らを呼んでいた。私にも人としての心が未だ残って居るのでこの事実は現在も本人達には秘密にしている。なんだこの呪われた姉弟。

中学校を卒業し高専に入っても同じく毛抜き人生は続いた。年下のギャルに勧められるままに除毛クリームなんぞ使ってみたが、やはり下馬評は覆せず。毛軍の圧倒的なパワーの前には歯も立たず、溶かした毛は音を置き去りにするレベルの速さで蘇ってきた。そして、肌荒れだけが残った。
仕方なく、また手で一本ずつ毛を抜く。私には僅かな休息も許されないと言うのか。毛、頼むから永遠に眠ってくれ。

結局20歳になるまで毛を抜くことに翻弄され、前述の通り黒い青春を送った。

大人なのでお金を使って脱毛してみよう!~脱毛器、レーザー脱毛編~

そして社会人になり、毎日会社に行って労働するだけで不思議と安定した収入が毎月振り込まれるようになった。留学生でクラスメイトのタイ人から「金の話やめろ!」と怒られた学生時代とは雲泥の差。

なにせJKにGの死骸の山を掃き掃除させるようなブラックなアルバイト
での時給が620円スタートだったもんで。2000年代やぞ。

その後は社会人人生と共に収入に合わせてさまざまな脱毛方法を試すこととなる。

まずは稲の収穫かな?レベルでバリバリバリと毛を引っこ抜く脱毛器を買った。これはもう物理的に引っこ抜く。毛を巻き込むように掴んで毟り取るやつ。完全に田んぼで見るあれをモデルにしてるやつ。

こいつで脇の脱毛をすれば一般女性なら低音で呻き、男性ならばこの苦痛から逃れるためならばありもしない罪状を認めてしまう。それくらい痛みを伴うこの脱毛器。
長年毛を自らの手で毟ってきた私にとっては輪ゴムが軽く当たった程度にしか感じぬ。掛かってこい!

暗い部屋で1人、テレビは点けたまま手で1本1本ムダ毛を抜いていた頃から考えればこのバリバリ音も軽やかな文明開花の音である。
むしろ愉快になってきた。さあ収穫の時間だ!得る物なんて何もないけど。

そんな脱毛器ライフを送りつつも新たにレーザー脱毛と言うものに手を出し、脇と膝下を焼き払った。
この2箇所だけなのは2箇所までこの金額、という縛りがあり、当時の金額は就職してそんなに経ってない20歳そこそこの女にはそれでも高額だったからである。出来れば腕も太腿もその他もお願いしたかった。

往復2時間。まじめに通い続け、年季が開けた時。以前に比べ確実に毛は減った。手ごたえを感じた時には「YES!YES!」と両拳を突上げた。

しかし奴らは何度でも蘇ってきた。

多少なりとも薄くなった膝下と脇の毛だが、居なくなったわけではない。
特に毛軍の中でもエリートが集まる膝周りと脇は、気が付けばニョキニョキと蘇ってきた。
「HAHAHA!そんな獲物じゃ俺たちを殺れねえよ!」と言われているような気すらしてくる。死滅してくれ頼むから。

それにその頃住んでいた家から都市部へと脱毛に通うのもなんやかんや骨が折れた。どうにかジェノサイドを、出来れば全身。手軽に出来ないものか?

しかし臆病な自尊心を飼い太らせ「人前でなんて脱げるか!」と大浴場にも温泉にも行けなかった人間としては全身脱毛を店で知らん人にしてもらうのにはかなり抵抗があった。
大体毛があるから風呂で人に見られるのすら嫌なのに、間近でくっきりはっきり見られるなんて絶対にごめんだ!そう思っていたのだ。

考えに考え、その時に購入したのが家庭用のレーザー脱毛器。これはかなり値が張った。でも欲しかったから買っちゃった!イェイ!
大人になるってこう言うことさ!

レーザー銃のようなブツを片手で持ち、小さな丸の照射口をドット絵でも描くが如く、ひたすら肌に押し当てる。

上手いこと照射されれば「ピロン♪」と軽快な音が鳴り、当て方が悪いと照射失敗。「ブー!」と妙にイラッとする音が鳴る。これの繰り返しだ。無の境地で自分の肌に丸く平べったい突起を押し付ける。

ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪ ブー! ピロン♪ ブー!ブー! ピロ…

写経でもしている心持だった。単調に繰り返される動きに感情が失せた顔。装置が自分を冷まそうと発する冷却音。わりとすぐに切れる充電。充電を待ってまた打つ。


傍から見ても修行のようなこの光景。これを続けていけば、いずれ悟れるのでは?そう思ったが悟れなかった。散滅すべし!毛根!!この気持ちが無くなら無い限り悟る日など来ない。

その後。毛根を死滅させる前に脱毛器が先に動かなくなった。無理をさせていた自覚はあるが保障期間過ぎたらすぐ壊れるの法律で禁止してほしい。
結局、毛軍の強さに人類はまた敗北し、辛酸を舐めたのだ。

それから数年。相も変わらずバリバリ音をたてて毛を引っこ抜いていたある日。ついに精神に限界がきた。
「……人の手で、脱毛しよう」
やっとここまで辿り着いたのである。

思い立ったら即吉日。
良き友人であるGoogle先生にアドバイス頂き、口コミも良く自宅から通いやすい。なにより勧誘がしつこくないと評価される脱毛ラボを見つけ、即時契約。本気の全身脱毛が始まった。

これがまあ、痛い。毛が濃いところほど痛いと言うが脇、膝のしぶとい生き残りとVIOはでっけえ輪ゴムでバチン!とやられるより痛い。
それでも「ふふふ…この痛み…毛根も苦しみよるわ!」と耐えた。

熱を持った箇所のお冷やしでジェントリーウィープスされて氷の世界を味わっても耐えた。むしろこっちの方が辛かった。
冷たいはK点を越すと痛いのだと知った二十八の昼。

そんなこんなで12回は通っただろうか。
確かに毛が薄くなった。以前のムダ毛ファサ子状態から考えれば全身まんべんなく薄くなった。
腕なんてあの頃の大草原から考えられない。焼畑農業さながらだ。足もかなり開拓され、もう生き物は住めそうに無い。二回転脱毛してる膝下なんてツルツルだ。でも絶滅させることは叶わない。まだダメか。

金額のこともあり、延長を申し込むかどうかのところで仕事も忙しくなり、脱毛熱は少し冷めたので一旦休戦とした。
因みに延長の勧誘とか本当に一切無かった。ガツガツしてないとことサクサク処理してくれるところが本当に良かった。脱毛ラボと口コミを書いてくれてた人に感謝。

果てしない闇の向こうにWOW WOW 医療レーザー脱毛

そして2年の月日が流れた。
奴らが、帰ってきた。そろりそろりと舞い戻るように姿見せた黒い毛よ。

特に脇と、膝。おまえらは不死身か。一番手塩にかけてあれだけ何度も焼き払ってやったのに何故蘇るのか。あと顎とか口元。私は性別を超越したくないの!生えてこないで!

ファッキンクソ毛根。

確実に減りはしたが全身にまだ残りし毛よ。
「この薄さなら気にならないよ~」そんな風に言われたりもしたが、素人は黙ってろ。こちとら20年戦争の真っただ中である。ゴールはここじゃない。まだ終わりじゃない。
全てを無に返さないと気が済まぬ。ええい!1本たりとも逃すか!焼き尽くしてくれる!と私の中の第六天魔王が叫ぶ。

そして1年前。色々あって奇跡的に出来た彼氏が漫画のキャラかよレベルでハイスペックだったことに舞い上がり、最終手段に手を出した。
医療用レーザー脱毛様の登場である。

※因みに前述の男とは自然消滅した。最期のLINEでの会話は「ラーメン博物館」情報の誤送信だ。もう恋なんてしない※

「Google Is Your Friend」とばかりに得意のネット検索をしまくって見つけた某クリニック。『資格を持った医療従事者が対応!』『医療レーザー脱毛は毛根部を破壊する医療行為』などと力強い言葉が並んでいて、これだ!これしかない!と諭吉を三十数人握りしめて駆け込んだ。

医療レーザー脱毛。照射パワーが違うよね。マジで。

痛みが伴うのは前以って聞かされていた。でも大丈夫、冷却装置を備えているので照射時には速やかな冷却効果が!とも。
でもね。私くらい毛軍が強いとね。パワー全開で挑まれるんだよ。ホント。
つまり、照射の熱に対してお冷しが追いつかな…

「うわああああああ火事だああああああ!!!!」

めっちゃくちゃに熱い。痛い。熱い。子供の頃読んだかちかち山のタヌキの気持ちが今なら解る。我が身が今燃えている。
背中が、尻が、ギラギラと燃えている。焼き討ちに合ったレベルで熱い。

もしや、保護用アイマスクで見えないのを良いことに焼きごてを押し付けられているのかもしれない。何も見えない以上「そうだ」とも「そうじゃない」とも言えない。シュレーディンガーの焼きごてだ。


この令和に熱々なものを押し付けてじゅっと焼く、そんな原始的な方法で毛根を焼いている?肌も一緒に焼けてないこれ?もしかしてこのままソテーにされるのでは?そんな疑問が頭の中を駆け巡る。疑惑が走る。

お姉さん「熱さ大丈夫ですか~?」
私「…大丈夫ですッ!!!」

いいや、これは男塾名物油風呂と同じだ。脱毛への不屈の精神が試されている。絶対に毛根を駆逐してやるという、覚悟。


『覚悟はいいか?オレはできてる』



熱さと痛みに歯を食いしばって耐えた結果、背面の脱毛が終わり仰向けになった時にベッドが汗でビッシャビシャになっていることに気が付く。
背中が冷たい。自分の出した脂汗で。恐怖した時人類は脂汗を出すのを実感した。背中と尻と太腿が冷たい。照射されてる腹は熱い。ものすごい熱い。

そんな感じで通い続けること4回。中々の成果を出してきた。特にVIOが本当にすっきりさっぱりしてきた。私は無毛地帯として生きていくんや!

しかし。あと1回でコースは終わりというところで今のコロナ騒ぎ。
まあ、彼氏が居るわけでもなし。人に見せる機会も無し。急ぎでもないし、しばらく待ちますか!

そんな風に流暢に構えていたらまた生えてきた。

一度死亡確認されたはずのIラインの毛が、フェイスラインと鼻の下の毛が。え、不死鳥?
それに脇と膝、おまえらいい加減にしろよ。やっちゃいけないことの線引き考えろ。

OK、あと1回では到底無理なのは解った。ここまできたら毛軍に勝つまで戦ってやる。やってやる。
俺のターン!諭吉を犠牲にして脱毛を3回分プラスする!

フェイスシェイバーの要らない顔を、ピンセットも剃刀も要らない体を手に入れるまで!冒険は終わらない!!!

戦いはまだ始まったばかりだ!!!!
(よしきち先生の資金繰りにご期待ください)


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