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大人の読書感想文〜「ブラックボックス」砂川文次著〜

前半のまとわりつく絶望感


この小説を読んでいる間、22歳か23歳か、24歳だったかもしれない頃のことを思い出して嫌な気分になった。漂う絶望感。

思い出したくない、戻りたくない過去だった。
特に誰かに話したこともなければ、特別なエピソードでもない。

不安と絶望、どうしようもできない自分への失望。今の状況より下に落ちることへの恐怖、運よくそうならなかったとしてもこの状況を死ぬまで耐えることになる苦痛で、何をする気にもなれなかった。

後半、世界は反転する?

主人公は、刑務所に入る。
刑務所から見るこれまでの社会は、どう見えるのか?

天国と地獄?
自由のある一般社会はやっぱり良かった。本当か?
刑務所の方がいいことだってある。

刑務所にいても、一般社会にいても同じなんじゃないか?
私が私であること、一寸先は誰にもわからない。
何が安心で、何が不安なのか。
何に怯え、何に期待する?

ブラックボックスとは何か?

刑務所というほとんど人間が関わらず生きていく世界。
このブラックボックスを開いた時、世界の見え方が変わった。

世界と私の接点。私はいつまでも私である。
しかし、世界はどう形を変えているのかわからず翻弄される。

そうは言っても、私にどうしろというのか?
人の最後は決まって「死」だ。
どんな選択肢を取ろうと、私が私である以上、
「死」以上の結末は待っていない。

ドン!と鈍い音がする

思った以上に衝撃のある作品だった。
思い出したくないエピソードや思い出したくない顔が蘇った。
生きることへの不安が、自分の足から長く伸びた影のように
つきまとう。

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。

逃れられない自分から逃げようとしている自分。
「行きたかった」と過去形なのは、もうどんなに遠くに行こうとしても
逃れられないことを知ってしまったからなのか。
でもなお、逃れたい。

光はあるのか?

この小説に、現代に光はあるのか?
だからどうする?
最後の1ページを何度も何度も読み返してしまう。

文章について

前半のメッセンジャーは、息が短い。
呼吸が早い。読んでいて、少し疲れてくる。
後半は声に出して喋るシーンが少ないからか、
前半より息が長く、また危なかしい暴発寸前の静けさ。
対照的に生々しい暴力と血の匂いが、不快感を煽る。
自転車のパーツやナットの種類など、不必要な情報が
効率的でもなく、愛想が良いわけでもなく、
上手に不愉快なのだ。



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