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「新自由主義」って何?-日本の新自由主義の理解は変なのかもしれない-

皆さんは新自由主義についてどう思いますか。

 新自由主義と言えばよく連想されるのは竹中平蔵氏です。

新自由主義者と批判される人ですが、「新自由主義」とは何なのか。これを説明する人は少ない気がします。

 ですから私は今回、改めて「新自由主義」とは何なのかをこの場を使って考えたいと思います。

・「新自由主義」?

 現在、日本の政党の多くが「新自由主義」なるものを批判しています。ですが私には、いまいちこの「新自由主義」なるものがよくわかりません。

2.3年前に自分で経済思想としての自由主義を調べた上で定義したのは「新自由主義」=「ケインズ登場以降の古典派自由主義」というところです。

 また新自由主義政策を行った政治家として挙げられるのがアメリカのレーガン政権とイギリスのサッチャー政権です。彼らは一体何をしたのでしょうか。そこから西欧の「新自由主義」が理解できると思います。

・英米を見る

 レーガンやサッチャーが登場した時代の両国はスタグフレーションという問題に悩まされていました。スタグフレーションとは「経済停滞」と「インフレ」のことです。これを解消すべくあらわれたのがレーガンとサッチャーです。

 彼らの行った政策は主に2つに分けられます。行政改革(政府活動の規模の縮小化)と国民負担の軽減(減税)です。これらはまとめられてしまいますが、それぞれ理論の出どころは違います。

 まず「国民負担の軽減」これは自由主義経済思想の影響が強いです。

レーガン・サッチャー両政権共に大規模な減税政策を行い、国民の生活においてかかる金銭的負担を減らしました。

※当時の自由主義経済思想を代表する論者はミルトン・フリードマンやフリードリヒ・ハイエクなどです。

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ミルトン・フリードマン

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フリードリヒ・ハイエク

 次に「行政改革」これは公共選択学派の影響が強いと思われます。

公共選択学派とは、「官僚というものは政府の規模を大きくして多く予算を得ることを目的としており、政府活動の拡大は返って無駄をたくさん生み出してしまう」という理論を提唱した人たちです。

実際、多くの規制を廃止したり、民営化を行うことで政府の活動をスリムにし、行政の効率化が達成されました。

※公共選択学派の代表的な学者はジェームズ・ブキャナンやウィリアム・ニスカネンなどです。

ダウンロード (2)

ウィリアム・ニスカネン

ダウンロード (1)

ジェームズ・ブキャナン

 両者の違いは個人の経済的自由を尊重しようという経済の話(ハイエクとか)政府の活動には無駄が多いからもっとスリムにしようという行政の話(ブキャナンとか)というところです。

 英米の「新自由主義」の構成要素が二つあるということ、そしてそれぞれの理論の目的を理解してもらったうえで、今度は日本人の考える「新自由主義」と重ね合わせて見て欲しいのです。

・日本は新自由主義?

 日本でよく「新自由主義」と言われる対象となっているのは小泉政権以降とされます。現在ではアベノミクスも含まれるのでしょうか。

※枝野さんと岸田さんの新自由主義批判の対象が大体小泉政権から第二次安倍政権までです。

先ほども書きました通り、

「新自由主義」の構成要素は1.国民負担の軽減と2.行政規模の縮小です。

では比較します。

・税金と国民負担率

日本の税金を見てみます。

まず消費税ですが、これは1997年から5%でしたが、2014年に安倍政権で8%、2019年に10%と増税されています。

次に所得税は2006年に最高税率を下げました。ですが今では再び最高税率が45%と上がっています。

所得税

法人税は1984年以降基本税率はずっと下がっています。

法人税

住民税も税率が徐々に統一されていきました。ですので税率が上がった人もいれば下がった人もいます。

住民税

 こう見ると確かに減税されているように見えますが、税率があがった税金もありますし、新しく導入された税金もあります。復興所得税や地方法人税などがいい例です。

 国民負担率を見てみます。国民負担率は税金負担と社会保険料の負担を合計した公的負担の国民所得に対する比率です。これが高くなるということはそれだけ国民に金銭的負荷がかかっているということです。

 上のpdfファイルを見ていただければわかりますが、 小泉政権時には若干負担率は下がっています。

しかし全体で見れば微々たるものです。それ以降、国民負担率が上がっていますから、少なくても第二次安倍政権は「新自由主義」ではありません。

・行政の縮小化/効率化

 日本では行政改革という言葉が1990年代からよく言われ様々な改革がされました。

大きく変化したのは橋本内閣の行政改革です。この行政改革が今では失敗だったのではないかという意見があります。

確かに「総務省解体論」「厚生労働省解体論」「財務省解体論」という話が出てくるあたりそう言えるかもしれません。

 行政改革の目的は行政活動の縮小、効率化にあったわけですが、効率化は間違いなく成功していません。日本の行政改革は主に公共事業の整理と公務員数の削減が意識されているのが特徴です。

しかし公務員の数が削減されても行政の仕事は増えているので行政の縮小も効率化もまったく進んでいないので日本の行政改革は何の結果も出せてません。

 行政活動の規模を分析するデータとして国家予算と規制の数があります。

予算は国家の意思と呼ばれるくらい重要です。予算規模が大きいということはそれだけ国家の活動規模が大きい事を意味しています。

日本の予算を見ると1975年から基本的には増加傾向にあり、小泉政権の時には一時的には予算が減少はしてます。ですがそれは微々たるものです。

そして小泉政権以降は再び増加傾向にあります。

小泉政権時に予算は縮小していますが国債の発行額は年々増加傾向なので、行政規模は無理に拡大を続けていることを意味しています。

債務

 次に規制の数ですが、日本はめちゃくちゃ多いわけではないですが、それでも西欧諸国と比べると程々に数があります。

これは年々増加傾向にあります。規制の増加は成立する法案の量と比例します。日本は大体年間100本前後の法案が成立しているので、その分だけ規制も増えていることを意味しています。

 以上のことから小泉政権時には確かに新自由主義的政策とされるものが行われたように見えますが、それは微々たるもので英米と比べると全然です。

第二次安倍政権まで含めますとむしろ新自由主義とは離れて規制、税金、予算、全てが増加傾向にありますので、第二次安倍政権を新自由主義と呼ぶのは間違っています。

・日本の新自由主義批判は何なのか?

 日本では第二次安倍政権まで含めて「新自由主義」と批判します。

この傾向は一体何なんでしょうか。私はこれを資本主義そのものへの懐疑と捉えています。

竹中氏を批判する声の中で多いのは「格差が広がった」「非正規雇用が増えた」です。これを批判することはある意味で資本主義そのものへの批判に繋がります。

竹中氏は総務大臣でしたので日本の雇用の問題に直接関与していると考えられません。また政治家ではなく、学者として小泉首相に気に入られていた側面が強いので政権内でも強い発言権を持っていたとも考えられません。

ですが竹中氏にこのような印象がついてしまったのには不良債権問題をめぐる印象があるように思えます。

 竹中氏が大臣だったころ不良債権をどう処理するかで二つの案がありました。一つ目は企業自身に処理させる、二つ目は企業を一時的に政府が支援するです。

当時のメディアは竹中氏が「企業自身に処理させて倒産させるのではないか」という報道をしました。しかし、竹中氏は企業を支援しています。

日本のこの倒産を怖がり避けようとする風潮は「リスク」や「不確実性」を忌避するという極めて非資本主義的な発想です。

そしてこの倒産などの自由主義競争を重視して、弱い企業はつぶれても構わないという思想は「新自由主義」というよりも「清算主義」に近いものがあります。

日本人はこれを勘違いして「清算主義」と「新自由主義」をごちゃまぜにしているのです。

資本主義の根本となる「リスク」や「不確実性」、そして企業の倒産を嫌う「清算主義」への忌避感、これが「新自由主義」を批判する人の根底にある思想だと私は考えます。

日本の「新自由主義」批判は「資本主義批判」であり「清算主義批判」なのです。

・終わりに-レッテル張りからの脱却-

 改めて言うならば英米で実践された「新自由主義」とは自由経済の達成のために国民の負担軽減を目的とした経済思想(シカゴ学派)と行政の無駄をなくすために行政活動の規模縮小化と効率化を図った行政改革の思想(公共選択学派)の双方によって構成されています。

ですから日本の小泉政権というのは確かに新自由主義的政策を取りましたが、その改革の内容など英米に比べると微々たるものでした。

さらに小泉政権以降は改革が引き継がれずにむしろ逆の方向に向かったのが事実です。となると現在の「新自由主義」批判というものは当てはまるのでしょうか。

私はこの風潮がかえって「資本主義」や「自由主義」を危険だと思わせてしまうのではないかと危惧しています。

再度言いますが、日本の「新自由主義」批判はどちらかというと「清算主義」批判にあたると思います。

そして実際、現状の経済や政府の状況では「清算主義」に該当するような政策はまったくありません。ですからこの「新自由主義」批判とは何にでも使えるよくわからない言葉になってしまっているのです。

 データによって見える景色が違いますから困惑するかもしれませんが、くれぐれも「新自由主義」批判に乗っかって「自由主義」「市場経済」「資本主義」を否定して社会主義社会を望むなんてことがないように願います。

※参考となる文献

清算主義の実態がわかる本。清算主義者で有名なのはアメリカで長く財務長官を務めたアンドリュー・メロン氏です。この本はそのメロン氏の評伝になります。私もまだ読み切れてないですが、清算主義の考え方を体現した人だと思います。

自由主義思想を学ぶのであれば、ハイエクやフリードマン、ミーゼスなどの本がいいです。

公共選択学派の内容を学ぶのであれば


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