五感で感じる読書
先日、会社の後輩と本の話をしていた。
「最近はほとんど電子で読みますね。場所とらないし。」と彼は言った。
たしかに僕も電子書籍で本を読むことは多い。スマホで買って、すぐに読めるので便利だ。場所も選ばない。
話のながれで彼に本をおすすめした。
「ポチります!」とKindle(電子書籍)でその本を買った。自分がおすすめした本を読んでくれるのはとても嬉しい。けど、心のどこかがモヤっとした。
この本はぜひ紙で読んでほしいのだ!という気持ちがその感情の正体だった。紙だからこそ、より楽しめる本はある!
ただそれはなぜなのか。電子と紙で何が違うのか。この感覚の違いをうまく言葉にできなかったので何も言わなかった。
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コロナ自粛の影響でずっと家にいる。場所を気にしなくていいし、紙で本を読む冊数が増えてくる。
10冊くらい読み終えたところで、さきほどの疑問にたいする自分の答えが急に腹に落ちてきた。
僕は電子で本を読んでいるときは情報を消費している感覚なのだけど、紙で本を読むときは本を体験をしている感覚なのだ。
この感覚の違いはアーティストの音楽ライブと近い。ダウンロードして聴く音楽とライブ演奏で聴く音楽は、同じ曲であっても体験として全く別種なものだ。
ライブの音楽は、聴くというよりむしろ全身に伝わる楽器の振動や会場の空気などもふくめて楽しむ、感じる音楽なのだと思う。
読書においても、紙のほうがよりライブに近く、より五感を使って読んでいるのかもしれない。
『サイコパス』という近未来SFアニメに紙の本を読むことの意味について語られるシーンがある。
『サイコパス』は、西暦2112年の日本で人間の心理状態を数値化できるようになった世界を舞台としている。その数値が基準値から逸脱した人間は犯罪者と見なされ社会から抹消される。
そんな世界に登場する敵キャラの槙島が、仲間のチェに本をおすすめする会話のシーンだ。
チェ:ダウンロードしておきます。
槙島:紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない。
チェ:そういうもんですかねえ
槙島:本はね、ただ文字を読むんじゃない。自分の感覚を調整するためのツールでもある。
チェ:調整?
槙島:調子の悪い時に本の内容が頭に入ってこないことがある。そういう時は、何が読書の邪魔をしているか考える。
調子が悪い時でもスラスラと内容が入ってくる本もある。
何故そうなのか考える。
精神的な調律?チューニングみたいなものかな。
調律する際大事なのは、紙に指で触れている感覚や、本をペラペラめくった時、瞬間的に脳の神経を刺激するものだ。
-アニメ『サイコパス 1期』-
五感を使って読む、とは槙島の言うチューニングされている状態に近いのかもしれない。
五感を刺激するのは文章の内容だけではない。本の手触り感や匂い、表紙のデザイン、読むときの外界の環境すら含まれると思う。
たとえば、海を舞台にした本なら、やっぱり海に近い場所で読んだほうが、もっと作品世界にひたれる気がするのだ。
だから、僕は本を読むときに場所にもけっこうこだわる。本にあわせた場所、あるいは場所にあわせた本を選ぶ。カフェなのか、バーなのか、海なのか、山なのか。
家で読んで楽しい本もあるからおもしろい。徹夜小説というやつだ。あと、人には言いにくい本とかも。
こうやって五感をフルに使うようにすると、読書がさらに楽しくなるから、紙の本も捨てたものじゃない。
けど、ぜんぶの本を紙で読む必要はないとは思う。五感で読みたいと思える本だけ紙で読めばいい。僕の場合、電子書籍で読んでから紙で買いなおすことも多い。
何回も読みたいし、体験したい、と思える本に出会えれば勝ち。出会えるまでは、電子でも紙でもどちらでもいいのだ。
これからの時代、情報提供だけを目的とする本は、ぜんぶ電子書籍に置きかわっていくのかもしれない。でも、それでいいんだと思う。
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最後に小説、ビジネス書、エッセイで紙で読んでよかったなあと思う本をあげておきたい。
夜は短し歩けよ乙女
京都で大学生をしていたときに読んだ。たしか大学2年生のときだ。小説の舞台も京都で主人公も大学生なのもあって、どっぷりと世界観にひたることができた。
いまでも鴨川沿いで読んでいた日のことを思いだすと、春のあたたかくも冷たい風が吹いてくる気がする。
大学生活に大きな不満はなかったが、もっと楽しいことがあるに違いない、と見つからない何かをずっと探しもとめていた。
風の歌を聴け
村上春樹のデビュー作だ。作中にある一節に惹かれて読み始めた。
一夏中かけて、僕と鼠はまるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し、「ジェイズ・バー」の床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻をまきちらした。そしてそれは、そうでもしなければ生き残れないくらい退屈な夏であった。-風の歌を聴け-
退屈な夏と書いてあるけど、読み手の僕には、これから来る夏への高揚感と期待感で体がフワフワ浮いてしまいそうな感覚がやってくる。
こんな夏をすごしたい。
グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
まったくビジネス書っぽくないロックな装丁の本。内容は正当なファンマーケティングの本なのでご安心を。
アメリカのロックバンド、グレイトフル・デッドがどのようにファンを増やしてきたか、マーケティング観点で分析している。
バーでロックな音楽を聞きながら読みふけりたい。かなり読みやすいので酒に酔っていても問題ない。
もうすぐ絶滅するという紙の書物について
じつはこの本はまだ読めていない。紙の本のこれからについて、2人の巨匠が語っている。内容も気になるけど、そもそもタイトルと表紙がかっこいい。この本こそ、紙で読みたい本ではなかろうか。
あげだしたら、永遠にとまらない…。
今回は、とりあげなかったけれど、読んだ本について友人と語り合うのも、とても楽しい。読むのは一回だけど、一度で二度楽しい的な。
Twitterもやっているので、よければ。読書仲間ほしいです。
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普段、自分が買わないようなものを買って、レビューします。