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『信仰』

新聞の本の紹介記事を読んで面白そうだと思った。
図書館でずいぶん長い間予約待ちをして、ふいに順番が来たとき、安倍元首相銃撃事件の後で、世の中は偶然にも宗教の話で大騒ぎ。なんだかとってもタイムリーな感じ。

信仰といえば宗教をイメージしがちだけれど、考えてみれば知らない間に信じ込んでることはいっぱいあって、常識とかブランドとか幸せとか、どんなものも勝手に都合のいいように信じて生きているのだなあ、ということをあらためて思い知らされた話だった。

エッセーらしい文章が小説に混ざっていて、それがとても印象に残っている。『気持ちよさという罪』である。
とうてい受け入れられない考えとか、抹殺したり排除したほうが世の中のためなのではないかと思うような醜悪な存在とか、そういうまったく相いれないものとも折り合いをつけることが本当の多様性というものではないか。

価値観を共有できるお友だちどうしでくっついて、気持ちよく過ごしている間は多様性は目指せないのだ。そんなことを考えて、ぐるぐる絶望的な気持ちになることがある。「多様性」「多様性」と口先では言いながら、排他的にならずにいられない。『気持ちよさという罪』は、そんな哀しみで胸が苦しくなる文章だった。

『信仰』をはじめ、星新一を思わせるドライで皮肉の効いた独特な世界観の小説は、どれもインパクトがあって面白かった。それなのに、このエッセイがなぜか心にひっかかっている。
これほどまで真摯に向き合い続ける人に、わたしもなりたいのかもしれない。


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