「師匠」の前で青年は永遠に青年だ。烏龍パーク橋本さんを通してみる又吉直樹。

スパークスの徳永の先輩「神谷」。気鋭の人として描かれる彼にもまたモデルがいる。

同じ吉本所属の先輩、烏龍パークの橋本さん。

たしかに「火花」を読んでいる時に、2人がメールのやりとりの最後に大喜利のような一言を添えているような話はどこかでしていて、

橋本さんだと思って読んでいるととてもしっくりいく感じはありました。

烏龍パーク(かつてはバーチャルトーイという名前で活動していた)は、大阪吉本からの上京組。

又吉くんはよく橋本さんとの交友関係をライブでも話していたし、ネタに出てくる女の子の名前がよく「橋本さん」になっていたのも覚えている。

それでも当時、線香花火が可愛がられていた先輩といえば、インパルスやチャイルドマシーンというイメージがあったし、

お客さんもライブでのフリートークでは彼らとの話が聞きたいのに、又吉くんはいつもちょっと照れながら

「バーチャルトーイのね、橋本さんっていう先輩がおってね」

ゆっくりと話していました。

「橋本さんが大好きだから、橋本さんに「橋本さん、部屋に鍵かけんといてください」言うたんです。」

ってね、又吉くんが、よ?部屋にかぎをかけるなって、言うんだって。笑

でも、MCも周りの人も、橋本さんにピンときてない。それでも、言いたい。

あの、恩返しみたいに話す感じは、妙に好きでした。

だんだん、線香花火がMCをやったり、又吉さんがコラムで連載を持ったり、立場が変わっていく寂しさみたいなものが

その又吉さんの「照れ」の中にあったように感じてた。

作品を通してまた、又吉くんは恩返しをしようと思ったのかなぁなんて思うとぐっとくる。

22歳の又吉直樹も、27歳の又吉直樹も、30歳の又吉直樹も見てきた。

彼の印象はずっと一貫している。彼の表現するものも一貫している。

多分一番変わったのは周りの環境なのだろう。彼のいる場所は、その見てきた十数年間でがらりと変わった。

だけどどうしてか、「橋本さん」の視点が入ると、又吉くんはずっと22歳の又吉くんのようだったし、

経験するたび、名を上げるたびに着せられていく洋服のようなものがつるんと剥がれた又吉直樹を見ることができたような気がした。

「烏龍パークのね、橋本さんっていう先輩がおってね」

と切り出す表情は、22歳の時のそれと本当に同じなのだ。いくつになっても、どこで話していても。

火花を通して読んで、ああなんか、この感覚の答えってこれなのかもなと思った。


「橋本さんがね...」と又吉くんが言う時、芥川賞作家になったこれからもずっと彼は若い痩せた漫才師の顔をするだろう。

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