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わたしの母は素人マジシャン

日曜日は母の日でした。もうずっと母の日に直接会うことはないのですが、毎年花や何かを送っています。プノンペンにいても指定の日時に贈り物ができるなんて、Amazonさんや楽天市場さんには感謝です。ちょっと母のことを思って書こうと思いました。

おばあちゃんに育てられたと思っていた

わたしは「おばあちゃんに育てられた」という意識をもって成人しました。母はフルタイムで働いていて、残業もあれば出張もあったから、わたしと妹はおばあちゃんに食事やら保育園の送迎やら、ときには授業参観までお世話になりました。母に「宿題やりなさい」と言われたこともない。母に対してのストレスも反発もない子ども時代を過ごしたので、放任主義で育てられたのかなと思っていました。けれど、今考えると、母はうまくわたしたちをコントロールしていたようです。なんとなく、家族の参謀長的立ち位置の母が、我が家のメンバー各人を適材適所に配置し、活躍させていた、そんな感じ。それを放任だと子どものわたしは思っていたのです。考えてみたら、わたしが何かを選択するとき、それはたとえば消しゴムひとつ買うにしても、「お母さんはどう思うだろう? 」と考えていたことから鬼参謀を常に意識していたことがわかります。

多趣味な人

フルタイムで働いているのに、母は趣味を持つのが上手な人でした。毎週日曜日はわたしと妹と一緒に書道教室に通っていましたが、今思えば、あの教室の中で大人は母だけ。子どもの中にいてあまり違和感のないのが母のすごいところ。週に1度社交ダンスに通っていた時期がありました。我が家に嫁姑の骨肉の争いはなかったものの1人で行くと姑によく思われないだろうと思ったのか、父を巻き込む作戦で、両親で村民ホールまでダンスに行っていました。こんなど田舎でダンスなんてやって何になるんだろう? と思春期のわたしは思っていたものです。「Shall we dance? 」の映画はまだやっていなかったころの話し。仕事で必要だからとパソコン教室に通っていたこともあるし、定年退職してからは英会話教室に通って、同じ教室で会話をしているのがわたしの中学時代の同級生たちだったことが発覚して大笑いしたこともあります。

長く続けたマジック

そんな多趣味な母が長く続けた趣味がマジック。ボードに書くアレではなく手品の方。地元の手品サークルに所属して、テーブルマジックからはじめて、水を使い出し、火をつけたりして、しまいには、箱の中から消えるイリュージョンの助手までしていました。手品は本番でタネや仕掛けが見えないように地道な練習が必要です。母のラジカセには常にマジックショーでお馴染みのCDが入っていて、わたしや妹が帰省するたびに、家では母のマジックショー開催です。これが結構面白くて手をたたいてウケている姉妹をそよに、父だけはしらけ顔。それもそのはず、日々の練習に付き合わされているのが父なのだから。では、父はタネを知っているかというと、「見えてるときもあるけどな」と言いながらもじつは知らないのでした。マジック界(という言い方があるのか?)では、たとえ家族でもタネを明かすのはご法度。母はそれを忠実に守る素人マジシャンです。えらい!

魔法使いの引退

我が家のエンターテイナーである母もマジックから引退を表明しました。数年前のことです。世の中はパンデミックの渦中。母たちのマジックサークルは、老人ホームへの慰問などを主にやっていたのですが、人との接触を避ける時代が来て、母たちの出番もなくなりました。寂しいけど、発表の場がなくなったから潮時と思ったのでしょう。一度だけ、マジック界のご法度やぶりをして母にマジックを教えてもらったことがあります。中学の友人の結婚式の二次会で余興を頼まれたので、ダメ元でお願いしたら快くわたしと友人ふたりを1日だけ弟子にしてくれました。母直伝のマジックはパーティーでかなりウケて、マジックは見るよりやる方が楽しいな、お母さんめ面白いことやりやがって! と思ったことを覚えています。姪が保育園を卒園するとき、なぜか祖母である母が東京に上京し謝恩会でマジックショーをすることになったことがありました。妹曰く、保護者や先生方だけでなく園児をも満足させていたと。やるのぉ素人マジシャン。以来、姪は、「うちのおばあちゃんはねぇ、魔法使いなんだよ」と自慢するようになったとか。

とにかく母は面白い人です。70も半ばになろうという今は、「こんなに誰が使うんじゃい!」と毎度つっこませてもらっているくらい大量の手編みのカバン作りと、仲間たちとの体操教室に勤しんでいます。親といっても、合うところ合わないところがあって、「わたしは母のようにはなりたくない」と若いころは大声で言っていましたが。じっさいは、やっぱり母のようになってきている自分がいること、大いに自覚しています。マジックはできないけれど。

幸せな人生の選択の仕方を教えてくれて、ありがとう、名参謀お母さん。


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