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ボードゲームメカニクスのミステリー、二人零和有限確定完全情報ゲームの真実

あるゲームを製作し、ゲームマーケット2023春に出展しました。

当初、ゲームとして成立していない(収束しない)と思われたボードゲームは時間を経てある真実に辿り着きました。

この記事では、開発当初のゲームメカニクスに関するミステリーと、ある真実に辿り着くまでの長い道のりについて書きたいと思います。


製作経緯

文系出身のボードゲームを趣味とするサラリーマンですが、本業でプログラミングに関係する業務に携わることとなり、プログラミングについて学習しました。その経験から、自分の子供たちが働くこととなる未来では日本語、英語と同じくらいプログラミング言語の知識も必要になってくるだろうと思うようになり、その時、困らないように「考える、試す、修正する」というプログラミング思考に慣れてほしいとの思いからボードゲームの開発を始めました。子供たちに少しでも興味をもってもらいたいと思い、サッカーをかけ合わせることで完成しました。

どちらかというと知育玩具のようなイメージで開発しており、当初はゴールへの道筋を私が少し邪魔(バグを発生させる)しつつ、最終的にはこちらが故意にミスをして子供にゴールを決めさせてあげて褒める、このような流れを作るための知育玩具として利用していました。即ち、ゲームとして成立しているかどうかは特に気にしておらず、ゴールまでのバグを見つけ、試行錯誤しながら、ゴールまで道をつなげていくことを単純に楽しんでいました。
しかし、回数を重ねると子供の理解も深まり、故意にミスをすると、もっと真剣に考えるように指摘されるようになります。故意にミスしてもやり直しを命じられることが増え、ある時から双方が本気で最善手を考えることを約束してから勝負するようになりました。
この頃から、もしゲームとして成立するのであればゲームマーケットへ出展してみたいと思うようになります。

ゲームメカニクスのミステリー

下記がボードゲームのルールとなります。
①交互に、矢印を新たに置くか、既に置いてある矢印の向きを変える。
②矢印のつながる範囲でボールを動かすことができる。
③先にゴールしたプレイヤーの勝ち。
④禁止行為
 ・矢印を相対する向きで置いてはいけない。
 ・矢印を枠外へ向けてはいけない。
 ・直前に相手が動かした矢印を動かしてはいけない。
当初の印象として、あまりにルールの自由度が高すぎるため、双方が真剣に勝負するようになれば、いつまでもゲームが収束しないだろうと考えていました。
真剣勝負をするようになり、常に双方が最短でゴールできる道筋を探り続けます。しかし、ディフェンスするスキルも高まっていたこともあり、やはり、当初の印象通り、ゴールすることができません。1時間を超えてくると考えるのもしんどくなり、引き分けを提案しようと考えるようになります。
しかし、ゲームが複雑な局面となったある時、異変が起きます。これまで適切にディフェンスの処理をしていた相手の矢印が魔法にかけられたかのように動かせなくなってしまい、突然勝負が終結しました。なぜ勝負がついたのか解明を試みますが、常に双方で盤面を上書きし続けることから、トレースしていくことができません。その後も、双方どちらかの矢印が動かせなくなり、突然終結するという状況が続きます。私が勝つ時は子供がミスをしたのだろうと考えましたが、時に私が負けることもあります。常に先を読んで完璧にディフェンスしているつもりだったので、ミスがあったとは思えませんでした。目の前で起きている事象を解明できず、大きな謎となります。
その後、謎を解明するために一人でテストプレイするようになります。しかし、今度は当初の印象通り、いつまでも勝負がつきません。対戦時は収束し、一人プレイ時は収束しない、全く同じボードゲームであるにも関わらず結果が異なり、更に謎が深まっていきます。
その後、延べ数百回一人でテストプレイし、ある特定の盤面になった時、以降最善手を選択し続けることでどんなディフェンスをされても確実にゴールが決まることがわかってきました。しかし、その特定の盤面にならないように事前にディフェンスすれば良いはずなので、やはり収束しないという当初の考えが正しい気がします。否、更にそのディフェンスを先読みしてオフェンスを組み立てていくことでその特定の盤面へ確実に持ち込めるような気もしてきます。
いつかは収束する、いつまでも収束しない、どちらの考えも正しいように思え、どうしても納得感のある答えに辿り着くことができません。
ゲームマーケットへ出展してみたいという気持ちが強くなる一方、肝心のゲームメカニクスについて解明に至りません。躍起になってテストプレイしますが、どうしても答えが出せず、悩み続け、そのストレスから悪夢を見るまでになってしまいました。
そんな悩み続ける日々の中、アプローチ方法を変え、ゲームメカニクス全般について調べることとしました。その過程で遂にある真実に辿り着くこととなります。

二人零和有限確定完全情報ゲームの真実

二人零和有限確定完全情報ゲームの定義は次の通りです。
・ゲームの結果が「先手の勝ち」「後手の勝ち」「引き分け」のいずれかしかない
・ゲームの中に偶然の要素がない
・ゲームが有限の局面しか持たない
・完全情報ゲームである
代表的なゲームとして、将棋、チェス、オセロ等が存在しており、対象ゲームもこのゲームメカニクスに該当します。
例えば将棋について、「○○名人が勝った」「○○竜王が勝った」という話を何度も何度も耳にし、勝ち方に関する本も数多くあり、常に目にしていたので、「既に確実に収束していく法則が解明されており、相手よりもより先の手を読むことができたプレイヤーが確実に勝つのだろう」と勝手に考えていました。
しかし、将棋の局面は10の69乗(無量大数)というとてつもない数で存在するため、未だに全てのケースについてA Iでも解析できていません。また、ただ先の手を読めば良いのではなく、局面の優劣を評価し、先を読む必要がない手を切りながら、より有効と思われる手について先を読み、限られた人間の処理能力のなかで最善手を選択し続けることが重要になります。
即ち、歴史がとても古い将棋ですら完全解析できているわけではなく、また、同じ局面をループし続ける状態が認識されており、4回同じ局面になった場合、千日手という引き分けとなるルールが存在しています。ゲームがどのように収束するか解析できていない、それどころかループし続けるケースがあることも認識されていながら、魅力的なゲームとして広く認知されているという事実に大変驚きました。その一方でどうぶつしょうぎは後手必勝であることが既に解析に至っています。また、つい最近、オセロは双方が最善手を選択し続けると引き分けになることを示す「Othelo is soleved(オセロは解けた)」という論文が発表されています。
二人零和有限確定完全情報ゲームのメカニクスとして、収束までの解析が完了しているかどうかに関係なく、人間の処理能力には限界があり、全ての局面を覚えておくことは実質的に不可能であることから、ボードゲームとしては成立しているという結論になります。
よくよく考えると、製作経緯にて「故意にミスをして子供にゴールさせる」と記載しましたが、終盤における複雑な局面では故意によるミスか単純なミスかの境がなくなってきます。
また、対戦時と一人プレイ時で結果が異なったのは、対戦時は相手の考えがわからないため双方がミスをしやすくなる一方、一人プレイ時は先を正確に読むことができ、限られた時間のなかでは致命的なミスをしないためだと思われました。
一般的なボードゲーム製作ではテストプレイを繰り返し、ルールやゲームバランスの問題点を模索し、修正していくのが通常です。しかし、二人零和有限確定完全情報ゲームは運の要素がなく、局面があまりに多すぎるため、テストプレイを繰り返すことがあまり有効ではないのだと思います。膨大な数の局面があるなか、数百回のテストプレイをしたところで、収束への法則が解明出来なかったのはある意味当然のことだったのだと思います。
遂に二人零和有限確定完全情報ゲームの真実に辿り着くことができました。しかし、ホッとしたのも束の間、「いつ終わるかわからないゲーム」を買ってくれる人なんて存在しないのではないか、という新たな懸念が生じます。

真実の先へ、ボードゲームの収束性について

ボードゲームとして成立していることは必要条件に過ぎず、魅力的なボードゲームであることの十分条件を満たしているわけではありません。魅力的なボードゲームにおいて、収束性はやはり極めて重要な要素の一つだと言わざるを得ません。いくつかの有名ゲームの収束の例を記載します。
オセロ…64マス埋まると必ず収束する。
カタン…10ポイント獲得で必ず収束する。
スコットランドヤード…全てのターン完了で必ず収束する。
上記のように、確実な収束点がルールとして用意されているからこそ、一定の時間内に終わらせることが可能となり、各プレイヤーは安心してゲームを楽しむことができます。
では、明確な収束点がないにも関わらず魅力的なゲームと言える将棋はどうでしょうか。将棋の歴史を振り返ると、長い時間をかけて強いプレイヤー達が勝ち方を模索し続けてきた歴史と言えます。将棋の場合、その勝ち方の模索こそが収束点(詰み)の模索と同義と言えるのではないかと思います。長い時間をかけて数多の強いプレイヤー達により、勝ち方(収束点)が積み上げられ、一般的なプレイヤー達も事前にその勝ち方(収束点)を認識しておくことで、一定時間の中で勝つ(収束する)ことが可能になってきたのではないかと考えられます。逆に強いプレイヤーの代表であるトッププロ同士の試合における持ち時間の最長は各人9時間であり、収束性の高いゲームと比べ、より長い時間をかけて勝負することも可能になるという性質を持っています。
ゲームメカニクスの解明が進み、このゲームは私一人で完成させる事は不可能であり、強いプレイヤー達の協力によって長い時間をかけて完成形に近づいていくことがわかってきました。

対象となるターゲット層

ゲームメカニクスを深く考察していくことで、対象となるターゲット層が明確になってきました。勝ち方(収束点)がほとんど研究されていない現時点では、自ら勝ち方(収束点)を模索することができる二人零和有限確定完全情報ゲームの上級者の方々がターゲット層となります。
ゲームメカニクスへの理解が進み、実は難易度が高く、当初想定していたような子供向けではないことに少し寂しさを覚えましたが、上級者の方々が勝ち方(収束点)を積み上げてくれることで、いつの日か、将棋と同じように子供も含めた幅広い方々に楽しんで頂けるゲームに育ってくれるだろうと信じています。
私自身が「勝ち方(収束点)」を発見することで、次の発見への大きな流れをつくっていくことも重要だと思っています。テストプレイ時に発見した勝ち方(収束点)について、サッカー用語を用いての説明を試みたのが「UNOZERO(ウノゼロ)の勝ち方」です。興味がある方はマガジンの中で気になった記事だけでも読んで頂けるとありがたいです。また、一緒になって新しい勝ち方を発見して頂けると更にありがたいです。

収束点のあるボードゲームの開発者は創造主に近い存在だと思います。一方、本ゲームのような収束性の低い二人零和有限確定完全情報ゲームの開発者は創造主というより、第一発見者に近いと思いました。二人零和有限確定完全情報ゲームの上級者の方々に勝ちたい(収束させたい)と思って頂くために、確実に有限となる納得感のある公式戦ルールを整え、公式戦を具体的に実行していくことも重要だと思っています。時間をかけて一つずつ課題をクリアしていき、より強いプレイヤー達へバトンをつないでいくことが第一発見者としての使命だと思っています。

ボードゲームのポジションと販売チャネル

対象のターゲット層も明確になり、ボードゲームの極めて激しい競争の中で、「知る人ぞ知る上級者向けボードゲーム」というニッチなポジションで細く長く生き残ることができたら良いなと思うようになりました。
販売チャネルも色々と幅広く検討してきました。しかし、特にボードゲーム好きではない何人かの知り合いに試遊してもらったところ、全員が「どうして良いかわからない」という反応だったことを受け、ゲームメカニクスのリテラシーが高い方が参加しているゲームマーケットとボドゲーマのみで販売していくこととしました。
この記事を読んで「なるほど」と思えるような方々のみにご購入頂き、クローズドな世界で進化、発展していきたいと思っています。
下は慣れたプレイヤー同士で実際にプレイした写真です。終盤は勝つか負けるか紙一重です。

下記がボドゲーマのサイトです。

ゲームマーケット2023春でのゲームメカニクスに関するエピソード

ゲームメカニクスの真実に辿り着いたうえで理解も進み、遂にゲームマーケットへ出展となりました。「ゲームマーケットの限られた時間の中ではゲームメカニクスの真の理解には至らず、購入頂くことは難しいだろう。まずは存在を知ってもらいたい。」という思いで、土曜のみ試遊ありで出展しました。結果的に想像を超えるご購入を頂き、ご購入頂いた方々との忘れられないエピソードがあります。
・私のつたない説明を必死に理解しようとしてくれつつも購入するかどうかを悩んでいるようでした。最後に意を決したように「ゲームメカニクスに敬意を表して買います」と言ってくれました。ゲームメカニクスを理解したうえでご購入頂ける方がおり、悩み続けた日々は決して無駄ではなかったのだと思え、本当に感動しました。
・ご購入頂き、数時間経った後、わざわざもう一度ブースに戻ってきてくれて「千日手の可能性があるが、ルールを整えて公式戦を開催してほしい」と言ってくれました。私が長い時間をかけてようやく辿り着いた事実に数時間で辿り着いている方がいることに感銘を受けると共に、自分の考えは間違っていなかったのだと、次へ向けての大きな自信になりました。
・ゲームマーケットの数日後にTwitterにて「UNOZERO、想像の♾️倍ゲームしてた、おもしろい!」とのつぶやきを見つけ震えました。ゲームメカニクスを完璧に理解したうえで面白いと言ってもらえ、とにかく嬉しかったです。このままキャッチフレーズにしたいくらいです。
・ある小学生が試遊した後、数時間後のゲームマーケット終了直前、購入するために母親を連れて戻ってきてくれました。難易度が高いことを気にしていたので、声をかけました。
私「難易度が高いかもしれないが大丈夫かい?」
少年「俺、将棋とかそういうゲーム好きなんだ」
私「そうか、ありがとう」
開発当初のことを思い出し、不覚にも涙が出そうになりました。

ゲームマーケット参加者の想像を超えるゲームメカニクスへの理解に驚くとともに、次の一歩への大きな自信となりました。皆様、本当にありがとうございました。

ご購入者のなかにはボードゲームカフェ「アジトベル恵比寿」さんの関係者の方がおり、有難いことにカフェに置いて頂いていることがわかりました。興味がある方はアジトベル恵比寿さんで遊んで頂けるとありがたいです。また、来年のゲームマーケット2024春に試遊ありで参加できるように調整していますので、お会いできるのを楽しみにしております。
決まり次第、Xでも発信する予定です。

おわりに

既にご購入頂いた方々のためにも、このような記事を書いて普及活動をしながら、将棋、オセロといった偉大なゲームの歴史を真摯に学び、上級者の方々に納得頂けるような公式戦のルールを整え、しっかりと公式戦を実行していくことが自分の責務だと確信しています。時間をかけて着実に前進していきたいと思います。

尚、本記事が「素人がボードゲームを製作、販売する方法 〜ゲームメカニクス編〜」となります。時間はかかると思いますが、「〜公式戦ルール編〜」、「〜公式戦開催編〜」も記事にしていきたいと思っていますので、末長くよろしくお願いします。


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