下がりだした中国国債金利Ⅱ ー 「バブル潰し」の「建前」と「本音」 。
下がりだした中国国債金利。↓(4/13稿)の続編。@3.10%を挟んで ”不気味に” 上下動を繰り返していた10年中国国債金利だが、今日(7/12)遂に@3%を割り込んだ。これで金融政策の方向性が決したと言っていいだろう。
実際に「金融緩和」に踏み出している ↓ :
”中国人民銀行(中国の中央銀行)は、7/9金融機関から預かる「預金準備率」を▼0.5%引下げ、約1兆元(17兆円規模)を市場に供給する追加の金融緩和策を行うと発表した"
これを機に国債金利は一気に低下。中国共産党100周年の一大イベントを通過し、必要以上に「景気回復」を装う必要もなくなった。対外的に発信されているよりも景気の実情が悪いのだろう。豚肉を始め、原材料や半導体の価格上昇が、特に平均以下の家計にかなりのダメージがあると推察される。「米中対立」で米国向輸出の一部がブロックされれば収入も減るし、IPO(新規株式公開)も禁止されれば資金調達もままならない。
そして中国経済の問題の核心「不動産向け融資」。人民銀も表向きは「不動産融資抑制」の大義を掲げているが「恒大集団」等のデフォルト(債務不履行)が取り沙汰される中、*この金融緩和が ”リアル” を物語っている。
* ”デジャブ” ではないが、中国はバブル時に日本と日銀が辿ってきた道筋をなぞっている。アメリカのように "Clash & Build" が出来れば理想なのだが、事はそれほど単純ではない。「借金まみれのバランスシート」はバブル当時の日本と瓜二つだし、この状況で不動産価格が下落すれば何が起きるのかは日本が証明済み。「デフォルトの波」は個人レベルまで広く波及し、そこに「人口減少社会」が加われば「金融危機」突入である。
だからこの中国10年国債の@3%割れは中国に大量に車などを売っている日本やドイツは無関心ではいられない。対立しているとはいえ、**アメリカにとっても「お金」の面からは実は "一大事" である。
** 中国企業の米国におけるIPO禁止は「対米経済戦略」の一環として使われている節もある。事実「ドル箱」を奪われたウォール街の投資銀行からは悲鳴も上がっている。だがこれはドル調達のルートを閉ざす ”諸刃の剣” 。最近米中に "政治的歩み寄り" が見られるのは当然の流れかもしれない。
当時の日本もそうだったが、やはりGDP世界2位の国がおかしくなる影響は甚大だ。主要国の国債金利が下げている背景としても見逃せない要因だろう。だが真に怖いのはこれから。
米中など「サプライチェーンの分断」が明確になる中、果たして「インフレ」がおとなしく収まってくれるだろうか。
筆者の自説では「インフレ」に波が変わってからまだ6年程。その前の「ディス・インフレ」が20年以上続いたことを考慮すると、折り返すには早過ぎる。すぐに「グローバリゼーション」が復活するとも思えないし、ESGやSDG`sには追加的コストがかかる。「物」の値段は上がり続けるはずだ。
そうなると1つの可能性がクローズアップされる ー 中央銀行群が「インフレ」対応を諦めて低金利を維持すること。主要国のほとんどが過剰債務に苦しんでおり「通貨価値毀損」で利害は一致する。「低金利下のインフレ高進」は実は "絵空事" ではない。
「国家」はそれでいいかもしれない。だが、全てのツケを押しつけられる「国民」はたまったものではない。現在の「国債金利低下+物価上昇」の "理不尽" を見ていると、段々不安が大きくなる。***歴史が証明しているのは「いつも最後に泣くのは一般庶民」。
***もう一つ歴史が証明しているのは「どこかの国が暴発すること」、即ち「戦争」である。国民の不満を外に向けるのはいわば政治の常套手段。我慢強い日本人は「生活コスト」の上昇を我慢して我慢して堪え忍んでいるが、他の国民が耐えられるとは限らない。国内で不満が爆発すれば、矛先を "外" へ向ける首長も現れるかもしれない。
日本の「不良債権」は海外メディアに「100兆円以上」とすっぱ抜かれ大騒ぎになったが(実は正しかった)、中国の「社会融資残高」は47兆ドル(約5,200兆円)と桁外れ。仮にその10%が不良債権化しても520兆円だ。
「中国の不良債権の話は聞き飽きた」という方が多いのも理解できる。実際この20年、言及されては雲散霧消。だが逆に言えば無理に無理を重ねてここまで膨らんできた、とも考えられる。それほど空前絶後の金額である。
アメリカ中心の「金融資本主義」では「ブラックマンデー」(1987)→「アジア通貨危機」「LTCM破綻」(1997~1998)→「リーマンショック」(2008)とクラッシュを繰り返す度に「爆発規模」が増大していったが、中国の場合は都度「爆発」させずに溜め込んできただけかもしれない。
それにしても一体どうするつもりなのだろう。相変わらず実体がベールで覆われていて「ただただ不気味」でしかない。
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