値上がりの時代。
「すいません、来月から値上げさせて頂きます…」
先日行った床屋さんでこう言われた。「バブル」も経験した「損切丸」としては何も謝る必要はないと思うのだが、今の20代にとって本格的に物価が上がるのは初めて。担当者も20代前半だ。彼らの生きてきた人生のほとんどで時間が経てばモノの値段は下がってきたわけで、戸惑うのも無理はない。
とにかく何から何まで上がる、まさに「値上がりの時代」。グローバルな視点からはやっと日本も「当たり前」になってきたが「お給料」があまり上がらない中で物価だけが上がり、可処分所得は減る一方。財布のヒモが堅くなるのもやむを得まい。 "リアル" =現実を受け止めるまで時間がかかる。
最も直接的で分り易いのがガソリンや電気、ガス等のエネルギーコスト。年初@70ドル弱だったWTI先物も今や@110ドル台。+3割以上も「値上がり」している。これをまともに喰らったのが米経済であり「インフレ」が悪化。そこまで直接的ではないものの*日本にも影響が出ている。
これはどの業種にも言えるが、床屋さんでも電気は使っているので「値上げ」はやむを得ない。だがメディアや報道で気になっているのがやたらと「コストプッシュ・インフレ」と書き立てていること。「本当の事」=「人件費上昇」を起点とした「インフレ」、を明らかにすると金利が上がって "まずい" のでこうなっているが、これは "FACT" =事実と異なる。
「身体介護サポート業務 時給@1,800円」
筆者が仕事を辞めて通っていた「ハローワーク」で、常に募集があったのが「介護事業」。需要が高まる一方で相当なハードワークなのに「お給料」が安くて人が集まらず恒常的「人手不足」。政府が単価を上げた事もあるが大分様相が変わってきた。おそらく人手が足りなくて事業がたち行かないのだろう。これでは本当にこの国は「姥捨て山」になってしまう。
「損切丸」でずっと言い続けてきたのが「人件費」の上昇。パート・アルバイトの平均時給の推移 ↓ を見ると、2016年から既に上昇に転じており「デフレ」はとっくに終了。日本も「インフレ」に突入している。
「インフレは一時的」
2021年前半にパウエルFRB議長が盛んに使っていたフレーズだが、これこそ「コストプッシュ・インフレ」を主張したもの。だから「利上げしなくてもいい」というロジックだったが、マーケットがこれを完全に否定。
その後は物価も株価も上がり続け、遂に「真性インフレ」に転化してしまった。そこでやっと「利上げ」に向けて重い腰を上げた訳だが、この判断を決定的にしたのが「人件費の上昇」。
代表的指標であるコアPCE価格指数 ↓ を見れば一目瞭然だ。
程度の差はあれ、実は日本も同じ流れ。業種によりばらつきはあるが、全体として人件費上昇の流れは続いている。
日米の違いは「インフレ」に対する "慣れ" だ。
「人口動態」を見てもアメリカで1950~1964に生まれた約7,800万人の「ベビーブーマー」が現場から次々に引退し、2015年半ばについに1980~90年代に生まれた「ミレニアル世代」に追い抜かれた。まさに「世代交代」の真っ最中。この数千万人の "穴" を埋めるには10年単位の時間を要する。つまり今回の「インフレ」は「コストプッシュ」ではなく「本物」。
日本では「団塊の世代」約8百万人がこれに当たる。不幸だったのは「少子高齢化」で「世代交代」が遅れ長期のデフレに突入してしまった事だが、「人手」に関して言えば足りないものは足りない。パンデミックで一時的にかき消されたが「インフレ」の足音は日に日に高まっている。
実際ここへきて経営者を悩ませているのが「人手不足」。2022年に入って倒産件数が増えているのも、「特別貸出」で延命していた企業が力尽きた面もあるが「人手不足」倒産の色彩も濃い。要は「人件費上昇」を吸収できるほどの付加価値がなかったということ。ここからは「人件費カット」に頼って利益を嵩上げしていた ”ブラックな会社” はバタバタ潰れていく。
この傾向が顕著なのが「飲食店」で原価率は40%弱まで上昇。これはかなりきつい。しかもこれまでのように安いパートやアルバイトを使って凌ぐことが困難になる。そうでなくても東京を中心に小規模店舗が多い日本ではある程度の淘汰・整理は不可避だろう。
「損切丸」が度々財務省や日銀にイライラする(苦笑)のは、この事実を掴んでいながらとぼけていること。特に現・日銀総裁が**「インフレはない」と言っているのは確信犯的。2021年前半のFRBより質が悪い。
暗い事ばかりでも何なので前向きな話も。「悪い円安」ばかり喧伝されているが、常に「逆の目」はある。ー @126円超えの「円安」が起こす "変化" 。|損切丸|note 日本に「投資」が向かう可能性もある。
本邦企業もアメリカや中国に建てた既存の工場を引揚げるのは難しいだろうが、今後の新規投資には「日本」が選択される可能性は高まる。事実、「経済安全保障」の一環で半導体工場の新設・増設に兆単位の「お金」が国内に投下される。当然雇用は増え、国内経済にはプラスだ。
「日本のイチゴがおいしい」
イギリスの同僚に「ロンドンに帰る時に日本から持って帰りたいのは何か」と訪ねたらこういう答えが返ってきた。確かに海外の "Berry" は小さくて酸っぱいものが多く、日本のように大きくて甘いものはない。アジアでは「日本の果物」が「お金持ち」を中心にもの凄い値段で売れている。これは再評価されている「酒」「焼酎」も同じで、若い杜氏に「世代交代」した酒蔵が海外向けに攻めに転じている。「円安」は強力な武器になるはずだ。
やはりポイントは「人」。デフレならまだしも、もうこれ以上「預金」や「余剰金」を100兆円単位で溜め込むのは無駄、いや「インフレ」では「大損失」だ。今後は「人」にもっと「お金」を「投資」すべきだろう。
好意的に見れば、財務省も日銀も民間が変わるまで待っているのかもしれず、「金利引上げ」はその後、ということなのだろう。早く「値上がり」が当たり前の日本に戻って欲しい。もちろん「お給料」込みで。
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