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「お金」も「信用」も失う時は一瞬。ー 「危機」は突然やってくる。

 忘れもしない1992年9月16日(水)イギリスの通貨であるポンドの為替レートが急落し、翌日に英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)を離脱した。為替の急落に伴ってポンドの短期金利は上昇O/N(今日~明日の1日物)は@100~200%まで暴騰した。当時100本(=1億ポンド)の資金ショート(不足)を抱えていた「損切丸」1週間物@150%を取らざるを得なくなり約▼300万ポンド(≓▼5億円)も失った。それまで半年かけて稼いだ収益をぶっ飛ばしてしまった。

 「あ~、俺何やってんだろうなぁ…」

 これはFXをやってる人は実感できると思うが、儲かっている時はトレーディングほど良い仕事はない。結果さえ出せば時間的拘束もないし「自由」を満喫できる。筆者も若気の至りなのだが、とかく20代は ”全能感” があり、相場の読みがピタリと当ると自力で何でもできる気になってしまう。

 だが世の中そんなに甘くない。「危機」は突然やってくる

 ポンド危機で筆者がやられた時は若干28歳。この時激しい「虚無感」に襲われた。曰く「こんな事やっても世の中の何の役にも立っていない」とか(苦笑)。儲かっていた時とは随分な落差だが、人の本性とはそんなもの「損」をすると途端に「世界のため」などという勝手な言い訳を始める。だがこの経験がその後20年に渡る「金利人生」の礎となる。

 いくら頑張って何億、何十億稼ごうと一発こういう ”巻き込み事故” に合えばお終い。トータルゼロで済めば御の字だが大抵マイナスに陥る。それが相場の本質と思い知った。個人の投資で言えば10数年頑張って築いた資産がほんの一瞬で「無」に帰する。「損切丸」が相場を見る時に1stプライオリティー(最優先事項)にしているのがその点。最近の言葉で言えば ”ブラックスワン” (黒い白鳥)とか ”灰色のサイ” である、

 そしてトリガー(引金)を弾くのはいつもデフォルト(破綻、倒産)。

 典型例が1997年の「山一証券破綻」や2008年の「リーマンショック」とその後やってきた「金融危機」"経済の血液" と言われる「お金」が滞る影響は甚大で経済がガタガタに崩れた。1998年頃転職で日本に戻った筆者が見た「ガラガラの銀座」は強烈に印象に残っている「コロナ危機」でも同様の現象が見られたがあれは単に人が出なかっただけ。あの時の「真っ暗な銀座」とは様相を異にする。夜のネオンも心なしかくすんで見えた。

 だがデフォルトは悪い事ばかりでは無い。良い面もある。

 小規模な例で言えば、2000年7月の「そごう破綻」。当時横浜に住んでいて行っていたが、店員の態度や品揃えが急に悪くなった。どうしたのかと思っていたら潰れた。やはり兆候というのはある。さて、潰れてどうなるかと心配していたら、店舗やフロアの改装が大々的に行われ、潰れる前より格段にいいデパートに生まれ変わった

 その後出てきた話では、旧経営陣が生き残ろうと無理なリストラを進めていたことがわかった。何の事はない、椅子にしがみついていた役員連中が "ガン" で、破綻で一掃されたことが大復活の起爆剤になったという話。どこかの国や大企業の老齢の政治家、大統領、社長には耳の痛い話だろう。

 デフォルトさせずに悪くなった代表例は日本の電力会社だろう。

 例えば最近の「値上げ申請」だが、買い付けたエネルギーの値段は平均でいくらだったのだろうドル円が@150円で原油価格が@110ドル、なんてことはなかったのか?

 もし仕入れの失敗を国民に押付けているのだとしたらとんでもないこと。日々相場で凌ぎを削っている商社や投資銀行ではありえない失態だ。責任を持って相場の判断をするスタッフがいたのかドル円もエネルギー価格も急落しているこのタイミングでの「値上げ」は不可思議極まりない

 これらは全て「モラルハザード」(倫理感の欠如)が引き起こしている。*本来「東北大震災」(2011年3月)の原発過酷事故による損失で潰れるはずの会社がなんやかんやで温存されてしまった。責任の所在も有耶無耶のまま。そうなると「損をしたら国民に押付ければいい」という ”文化” が根付いてしまう。損してもいい相場ならこんなに気楽なものはない

 *アメリカでもエネルギー大手「エンロン」が破綻したが、きちんと精算され今に至っている。こちらは国会でも「お金」の話がガンガン出る米国民が「お金」にうるさいからだ。30年間で日米の給与格差がこれほど開いてしまったのはこの点に尽きる。「清貧思想」も程々にしないといけない。

 原発再稼働の問題もこれだけ揉めるのは、ひとえに電力会社が信頼できないから。また過酷事故を起こして全てを国民に転嫁されてはたまったものではない。某大臣が「値上げ」申請について聞き取りを行ったというが、「仕入れ値」などしっかり調査願いたい。「お金」のチェックが甘過ぎる

 金融界は銀行の大規模破綻を経て資本や流動性規制を厳格化した。お陰でFRBが+0.75% × 4回などというとてつもない「利上げ」を行った割に ”ブラックスワン” は舞い降りなかった。これこそ ”怪我の功名” という奴だが、「危機」の代わりに広く薄く影響が広がったのが「インフレ」。この戦いは長期戦になる。世界的危機には至らないかもしれないが、「規制」の及ばない新興国にはデフォルトも頻発するだろう。

 「どうせFRBが救ってくれる」

 金融界に蔓延る「モラルハザード」がこれ「利下げ」を催促するが如き米国債の「逆イールド」がその現れだが、その "自惚れ" も風前の灯火。銀行のデフォルトの確率が低くなった今、中央銀行はその分「インフレ」退治に専念できる「金融危機」→金融規制が先に起きた日本を追うように、ウォール街も自分達の影響力が落ちていることを実感するだろう。逆にこれから金融政策の正常化に向かう日本はやりようによっては "復活の狼煙" が上がる「植田新総裁」のお手並み拝見である。

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