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「お金」>「感染症」への傾斜。ー 直近の「物価指標」から読み解く。

 「Go to キャンペーン」を巡って巷は大分騒がしくなってきた。「経済」=「お金」を「感染症」に優先させる政策は日本に限らず、アメリカやイギリスでも明確になっている。イギリスでは消費税を@20%→@5%を期間限定で行い、月~水の外食代金は政府が半分持つそうである。パブでマスクもせずにビールを飲んでいる風景を見ると「ああ、イギリスだな」とも思う。

 おそらく今回の感染症による致死率が低いため、経済を優先した方が死者が少ない、と判断したのだろう。欧米流の「合理性」である。それに対し、多くの人の移動が伴う「旅行」が感染対策上あまり歓迎されないとは言え、この日本における拒否反応は凄まじい「働かせろ!」「マスクをしないのは個人の自由だ!」などとデモが起きる国々では理解できないかも知れない。何でもきちんとしなければ気が済まない日本人気質が良く出ている。

 円のマネーマーケットで「1円問題」というのが勃発したことがある。大手邦銀FドイツのD銀行に1,000億円貸付けたのだが、利息の計算が四捨五入と切り捨ての違いから「1円」合わなかった。F銀行は再三再四その「1円」を払うようにD銀行に請求したが、3か月以上放置され結局F銀行はD銀行への信用枠を切ってしまったD銀行にしてみればそんな「1円」に固執するのは不合理、と軽く見たのかも知れないが、日本人気質を完全に読み違えた。たった「1円」のために1,000億円もの信用枠を失う代償は随分高くついたものである。「文化的な相違」はお互い尊重するべきという実例。

 「お金」>「感染症」が如実に表れているのが今の株式市場だろう。一時的とは言え、昨日(7/15)NYダウは27,000ドルを回復した。恐るべき回復力。ナスダックは史上最高値を更新し続けているし、まるで「コロナ危機」など無かったかのようだ。完全に元のルートに戻った。大統領選までまだ3か月以上あるが、NYダウは30,000ドル超えさえあるかも知れない。

主要株価 15 Jul 20

 このあたりは物価指標にも現れている。最近出たCPI(消費者物価指数)を見てみよう(年率):

 アメリカ 6月 +0.6% (予想)▼0.6%  (前月)+0.1%

 イギリス 6月 +0.6% (予想)+0.5%  (前月)+0.5%

 イタリア 6月 ▼0.2% (予想)▼0.2%  (前月)▼0.2%

 スペイン 6月 ▼0.3% (予想)▼0.3%  (前月)▼0.3%

 ギリシャ 6月 ▼1.6% (予想)▼1.1%  (前月)▼1.1%

 未曾有の事態なので指標の予想精度が落ちているのは仕方が無いが、マイナスに落ち込むとされていたアメリカのCPIは予想に反して+0.6%に反転「バラマキ」政策が ”功を奏している” と言っていいだろう。経済優先に舵を切ったイギリスでも+幅が微増している。

 この結果、プラスに転じていた10年米国債の実質金利も再びマイナス圏に転落。為替市場でドル安が進む一因になっていると推察され、名目金利については今後上昇余地が生まれた。

実質金利G8(after CDS)@15 Jul 20

 一方財政に余裕のない国々の物価は上がってこないイタリアスペインは横這い、**ギリシャに至ってはマイナス幅が@▼1.3%→@▼1.6%と拡大。日米英のように大胆な財政政策が打てないため経済の停滞が続く。

 **実質金利の概念からすると、CPIが下落したギリシャ国債などは買われて金利が低下しそうなものだが、逆に金利は反転上昇。一時イタリア国債を下回っていた名目金利は再度上昇基調にある。景気停滞→税収減→財政危機→デフォルトリスク増加と金利市場は読んだのだろう(CDSはまだそこまで反応していない)。これがマーケットの厳しさでもある。

 日本も「消費税下げろ!」的な主張もあったが、仮に@10%をゼロにしても年間の財政効果は10兆円程度。今回の1人当たり10万円の給付金とほぼ同額だ。1つ違いがあるとすれば、***「現金」を渡すと使い込んでしまう人が多くいるということこの10万円を持ってキャバクラやホストクラブに行った人が結構いそうで、かえって感染を広げてしまったかもしれない。、イギリスのように消費税を下げた方が良かったか。

 ***実際筆者の地元郡山でも東北大震災の後、パチンコ屋と飲み屋が大繁盛した、という話がある。災害対策で「現金」を配った結果、多くの人が「夜の街」や「娯楽」に走ってしまったのである。これが現実。福祉業界では「現金はNG」が常識だという。人間、そんなご立派には出来ていない

 再び訪れた「鉄壁の株式市場」に今後死角はあるのか。

 リスクの1つはウイルスの「強毒化」だろう。感染による致死率が上昇すれば「経済」ばかり優先するのは「合理的」ではなくなる

 もう1つは「真性インフレ」とそれに伴う金利の上昇。株式市場が最も恐れているパターンだ。金利が十分高くなればお金は株式市場から移動する

 ドルは主要通貨で需要が高いので、お金が不足して金利が跳ね上がる確率は実はそれほど高くない。「台風の目」「円」国内のリソースはほとんど使い切っており、海外から円を集めるとなればそれなりの「金利」が必要だ。変化が起こるとすれば半期末の9月、そして来年3月が試金石となる。

 日本からは多額の投資がアメリカを始め世界中に拡がっており、これが円金利の上昇と共に逆流すれば、金利市場はもとより為替、株式市場に及ぼすも影響も甚大。さてどうなるやら...。

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