米国債、FX、株、コモディティの相互作用。ー 米中CPIが示唆するもの。
昨日(8/10)は注目されていた米中の7月CPI(消費者物価指数)の発表があった。それぞれ示唆するものが違っていて興味深い。
まず中国のCPI( ↑ 上段)だが、こちらは「思った程伸びなかった」。半導体株の下落とも相まって、中国も日本も株価が下落。特に▼500 bps 近い下落に見舞われた香港ハンセン指数の不調が際立つ。HKMA(香港金融管理局)も香港ドル買い介入を強いられており、「お金」が逃げ続けている。
CPIの水準自体が低いのは日本と共通する点だが、中国はやはり「不良債権問題」の影響が大きい。国際的な「インフレ」と国内の「デフレ」の綱引きになっている。急激な少子化など実は日本経済も "同じ病" にかかっており、アフリカや中東、南米から継続的に移民が入ってくる欧米とは人口動態の構造が違うことも見逃せない。
対照的だったのが米CPI( ↑ 下段)。+8.5%(年率)と水準はまだまだ高いが「やっと下がり始めた」ことを米株式市場が好感。NYダウ、ナスダックともに大きく上げ、特に後者は日経平均、独DAXと並んでようやく2020年終値まで戻した。WTI(NY原油先物)で見ても、一時の@110~120ドルから@100ドル以下に下げており、ほっと一息というところだろう。
株と共に素直に反応したのがFX。このところ頭の重かったドルに対して「待ってました!」とばかりのドルの売り浴びせ。ドル円は米CPI発表直後に@132円台まで一気に下げ、他の通貨に対してもドル安が進んだ。
「ドル高」に苦しんできたトルコリラ、ブラジルレアルや通貨防衛のために「利上げ」を強いられていたフィリピンペソなども反発しており、2021年来続いてきた強烈な「ドル買い相場」も曲がり角を迎えつつある。
これらに対して「マーケットのひねくれ者」(苦笑)金利市場は複雑な反応。10年米国債は米CPI直後「利上げ幅が圧縮される」との思惑から@2.7%近辺まで一気に突っかけたが、その後思い直したようにジリジリと売り直しが入り、結局前日比変らずの@2.78%。30年はむしろ@3.03%と金利が上昇している。「利上げ」の影響の大きい2年債も@3.15%から@3.22%に跳ね返され、9月FOMC+0.5%「利上げ」路線に戻した。
やはり金利トレーダー・投資家達が、筆者同様 インフレのコアは雇用コスト(人件費) > エネルギー・商品価格。|損切丸|note を意識している証拠。これで総合CPIの下落だけで安易に米国債が買われる(金利が低下)のは "戒められる" だろう。
「アメリカは給料が上がって良いなぁ」
こう思われる日本人も多かろう。だが ↑(参考)で示したアメリカのインフレ調整後「実質賃金」は、実は2021年4月以降マイナスを継続しており「インフレ」が生活を圧迫していたことがわかる。「富」はほんの一部に集中しており、平均的庶民の生活は日本よりきつかったかもしれない。
逆に言うと、ここでガソリン価格が下がる事は「実質賃金」の上昇、つまり生活が楽になることを意味する。これは日本も一緒。まだ高止まりの食品コスト(7月+10.9%)が落ち着けば、個人消費にはむしろプラスだ。米株の反発、米国債の売り直しはその反映と見ることが出来る。
最後に残るのは雇用コストに基づく「コアインフレ」。CPIの下落につれて「人件費」の伸びも多少鈍るだろうが、「人手不足」はベビーブーマー(e.g. アメリカ約4,000万人、日本「団塊」約800万人)引退に伴う構造的なもの。現在のPCE@+6.8%から一気に@+4%を割り込むとは考えにくい。
日欧米の「お金持ち」社会では物価におけるサービス価格の占める割合が高いため「人件費」が最も重要。おそらくFRBもその事を熟慮しており、現在の「利上げ@3.50%到達点予想」はやや楽観的過ぎるように映る。
昨日の相場が象徴的だが、今後マーケットは米国債、FX、株、コモディティ(商品市場)の相互作用で動いていく。そうやって「均衡点」を探すのが相場でありやっと「普通」に戻ったわけだが、おそらく主導的役割を果たすのは他の市場の影響を受けにくい「マーケットのひねくれ者」金利市場になる。2021~2022年も随分米国債に振り回されたが、まだ当分続きそうだ。
今後も「逆イールド」だなんだと手を変え品を変え「トラップ」を仕掛けてくるが、無駄に振り回されないよう気をつけたい。「損切丸」は一応元・専門家(苦笑)でその「手口」は熟知しているつもり。できるだけ note. していこうとは思う。何かの参考になれば幸いである。
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