「消えていく金利の恐怖」其の4 - 「マーケット同窓会」。銀行界を去った人々とその後。

 「note っていうところでマーケットに関するブログを書いてるんですよ」

 2年ぶりに元の職場の「同窓会」が開かれた。久しぶりに会う人達に口々に聞かれたのが「今何してるの?」「損切丸」のことを話したら、現役の頃も良く相場の話をしていた為替の営業部長が興味を持ってくれた。業界では今コンプライアンス厳格化で顧客情報などの共有が難しくなっており、メディアでも取引に有用な情報が得にくくなっている。SNSなどへのアクセスも禁止しているところが多く、銀行の外にいた方がむしろ情報を得やすくなっているぐらいだ。銀行に残っていたら、おそらくこんなnoteは書けない

 しかし会う人、会う人、皆いろいろな業種に転身していた。自己資金を運用している人、不動産会社や証券会社を自前で立ち上げている人、ボクシングジム経営に、中には地方自治体の外郭団体の役員をしている方や大学の客員教授をしている方もいる。年齢のせいもあるが、*銀行業界に残っている人はほとんどいない「やっぱりな」というのが正直な感想だ。

 *1人日本の証券会社に転職した人がいたが、あまりのカルチャーギャップに衝撃を受けていたようだ。本人はそれなりの覚悟は持って転職したらしいが、日本の銀行に7年在籍した「損切丸」としては、さもありなん、と言ったところ。同調圧力と根回しの文化「会社教」とも言うべき一種の「カルト」なあの雰囲気は、外資系から行った人には堪えられないだろう。

 金利関係に従事する現役トレーダーと元同僚と話をしたが、「消えていく金利」については意見が一致した。「金利はなくなるかもしれない」。金利がなくなることは即ち銀行がなくなることを意味する。貸出も預金も金利をベースに成り立っており、金利は銀行業の根幹をなすものである。これがゼロ、あるいはマイナス金利になることは、大袈裟に言えば銀行業の否定だ。

 面白い事に、アメリカではここに来て長期金利を中心に金利の反騰が続いている。メディアに出てくる金利の記事も、いつのまにか金利が上がる方向のものが増え、10年の米国債は「2%目指し」が当たり前になっている。実際、金利の上昇が続き、最近のドル円の買い材料ともなっている。( ↓ グラフご参照)

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 筆者は、金利反騰のきっかけはリブラ反対の銀行界の動きにあると考えている。JPモルガンのジェイミーCEOが「リブラ断固阻止」という趣旨の発言をしていたが、まさにあれが既存の銀行業界、特にアメリカの銀行業界の意見を代表するものだろう。筆者も10月21日投稿.なぜ今になって「デジタル通貨」が登場するのか? で書いたが、リブラ潰しの最も簡単な策は金利を上げることである。アメリカの金融界が団結して長期債の購入を減らせば、このぐらいの金利上昇は朝飯前だ。

 アメリカは経済も株も好調だからまだ余裕があるが、大変なのはヨーロッパだ**イギリスの離脱でダメージを受けているところへ、ドイツは実質リセッションだし、とてもユーロ金利はプラス圏まで上がる状態にない。それどころかECBはマイナス金利の深掘りさえ未だに検討している状況だ。

 **実際、イギリスはこのヨーロッパの状況を察知してBREXITに動いていた形跡がある。勤めていた立場からすると、イギリスというのはなかなか狡猾な国である。情報網もかなりしっかりしており、いつも転換点になる大事なポイントははずさない。良くも悪しくも油断のならない人達だ(笑)。

 リブラデジタル通貨についても、絶対反対はアメリカの銀行界と同様だが打つ手がほとんどない。慌ててECBにデジタル通貨の発行を持ちかけているようだが、技術的に対応が難しいのと時間的余裕がない。そしてこれが根本的な問題なのだが、今のユーロをそのままデジタル化するとして、マイナス金利はどうするのか? いくらブロックチェーン技術を使おうと、マイナス金利を解消しない以上、付利のないデジタル通貨「デジタル人民元」に太刀打ち出来ないだろう。

 筆者は為替の専門家ではないが、ユーロの先行きには悲観的だ。それでなくてもギリシャやスペイン、イタリアなど不況と借金苦にあえぐ国が多いのに、「デジタル人民元」「リブラ」を含むデジタル通貨「金利の上がるドル」まで出てきたら、資金が一気に流出しかねない。大袈裟に言えばユーロの崩壊。今はユーロ>ドルのレートで取引されているが最悪パリティ(1ユーロ=1ドル)割れまであるかも。それほど事態は切迫していると思う。

 さながら「マーケット同窓会」だったわけだが、さすがに皆元プロでリスクを理解している人が多かったので話は早かった。お金もほどほどに持っている人達だ。インフレ政策(=法定通貨減価)で現預金保有が危険、と言う認識はほぼ一緒で、巷で最近見られる「株の買われ過ぎ」を言う人はほとんどなかった。それどころか昨年末危ない、と思って保有株を投げた事を後悔している人も。この辺りは一般に出ている情報とはちょっと色が違う。

 まあマーケット関係者も間違えることは多々ある。リーマンショックがその典型だからあまり偉そうなことは言えないが、金融界が大きな変革期を迎えていることは間違いない。これだけたくさんの人材が銀行を去っている事自体がその証拠だろう。国家の膨大な借金を鑑みると、歴史的に見て「産業革命」的な動きが起きている、と認識した方が良さそうだ。

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