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金融行政手続き「英語化」 ー 「やっとここまで来た」。英系銀行に勤めていた元邦銀の行員より。

 金融庁が今年度の重点施策をまとめた「2020事務年度金融行政方針」申請・届け出手続きなどの英語化が含まれるという。邦銀から英系銀行に転職し、20年以上に渡り金融庁と情報交換等やり取りをこなしてきた「損切丸」としては「やっとここまで来た」と感慨深い。

 1994年に日本のメガバンクから英系銀行東京支店に転職した時、まず驚いたのが管理・手続があまりにお粗末だったこと。メガバンクの本店勤めだったこともあるが、いる人材の "質" もあまりに違っていた。だが世界での評価は全く逆。当時邦銀は不良債権問題に喘いでおり、ドル資金の調達など筆者が転職した英系銀行の方が上だった。

 「なぜこんな銀行に邦銀が屈しているのか...」

 それからの東京は金融ハブとしての地位を大きく落し、アジアでも香港シンガポールの後塵を拝するまで後退。外資系銀行に勤めていたとは言え、「日本人」として「損切丸」にも忸怩たる思いもあった

 香港シンガポールには何度も勤務、出張で行ったことがあるが、確かにこの10年の発展は目覚ましい。関税ゼロなど税制面の強みから「お金」が集ったのも事実だ。しかし「お金」の量なら東京もまだまだ負けてはいないし、メガバンク3行は国際的な銀行である。やはり決定的だったのは「英語が通じないこと」だろう。

 そこへ今回の「香港問題」の勃発。香港の方々には気の毒だが、これは日本の金融界にとっては千載一遇のチャンスと考えて良いだろう。実際ハンセン指数は大きなスランプに陥っており( ↓ チャート)、巨額の資金流出が始まっているのは明らかだ。

ハンセン(5年)

 今のところ香港の受け皿としてはシンガポールが最有力となっているようだが、香港や東京のような主要株式市場もないし、資金力にも欠ける「英語問題さえクリアできれば東京の方が有力だと個人的には思う。

 しかし、不良債権の「飛ばし」問題の主犯として外資系金融機関が目の敵にされ、「 "怖い" 金融庁検査」でケチョンケチョンにやられた時とは雲泥の差だ( ↓ 「半沢直樹」の現場・時代から。ご参照)。

 ここ10年の金融庁の変化は目を見張るものがあった。やはり銀行を叩きすぎて経済が大失速してしまった反省もあったのだろう。「 "怖い" 金融庁検査」はすっかり影を潜め、外資系金融機関に対してはむしろ友好的とも感じられた(もちろん例外もある)。

 特にリーマンショック以降、欧米で銀行規制が先鋭化する際、「損切丸」UKFSA(英国金融庁、日本の金融庁はJFSAと呼ばれている)やFRB流動性規制等の情報を率先して日銀や金融庁に伝え、本店からの来訪者も積極的に連れて行った。手前味噌になるが、当時外銀東京支店の資金繰り担当で本店と緊密に連携している担当者は殆どおらず、当局には重宝がられた。

 ある日、金融庁からドル円の為替直先取引(FX Forward)についてプレゼンを頼まれた。当時邦銀は米国債等外債投資のために FX Forward による「円投」を多用していたが、ドル・プレミアムによるコスト高に苦しんでいたためだ。どうせ5人ぐらいに説明するのだろうと出向いたら、50人以上のそれも役職者にずらりと囲まれギョッとしたものである。「損切丸」の銀行はドルも十分にあったし、東京支店としても収益が上がるので金利裁定取引を拡大したいのはやまやまだが、受け取る円を置く日銀当座預金や日本国債等「日本向エクスポージャー」に制限がある旨説明した。つまりどの外銀も同様に儲けたくとも儲けられない状況で、それがドル・プレミアムを発生させていた。大元の原因はバーゼルⅢなど欧米銀行に課された厳しい「流動性・資本規制」であり、「邦銀イジメ」などではなかった訳だ。

 資金力、人材等、日本の銀行のポテンシャルは高い。ここで「英語問題」を解決して香港の受け皿になればその影響は想像以上のものになるだろう。**人口が日本の半分に満たないイギリスが「ビッグ・バン」以降、ロンドンの金融を中心に目覚ましい発展が遂げた事がその可能性を示している。

 **参考までに言えば、この20年間、日本の地下がほぼ横這いだったのに比べ、ロンドン中心地の地価はオイルマネー等の流入により3~4倍に高騰した。ただ税金をばらまくだけの「ハコモノ」景気対策や「株買占め」策より余程効果が高いはず。「昭和の亡霊」はもう止めにしたい

 日本の金融界の苦境を20年以上横目に見てきたが、心から「日本復活」を応援しているたかが英語、されど英語、である。外資に長く努めて「意思疎通」の大切さを痛感している者として。頑張れ、日本。



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