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いくら好きでも満腹のゴリラはバナナを食べない。

 後に映画にもなった「ライアーズ・ポーカー」(マイケル・ルイス、1989)。同作者の「The Big Short」(邦題「マネーショート」2015、出演:ブラッドピット等)も映画化されたが、相場、マーケットの動きを現しているフレーズだ。最近のドル円を見ていてこれを想い出した。

 相場には良くあるが「買い」に火がつくと市場は暴走する日本の「バブル」然り、直近なら中国の不動産ブームもそう。とにかくまだお腹が空いているうちは好物のバナナをむさぼり食う

 ただ相場は理屈とは反対に動く時がある。例えば筆者の担当したドイツマルクではBundesbank(ドイツ中銀)が「利下げ」したのに金利先物やブンズ(Bnuds、ドイツ国債)が売られたりした(金利は上昇)。「買い」(金利低下)で大きく張っていてガッツポースしたら、結局は大やられ。部長、副部長に報告するのが一苦労だった。

 こう言う状態を「いくら好きでも満腹のゴリラはバナナを食べない」

 だから理屈と逆に相場が動く時は要注意。自信満々の理論派が敗れるのがこういう時だ。最近なら2019~2022年に「過剰流動性」で押し上げられた株式市場に「割高」と売り向かって大やられしたクオンツ系ファンドがそれ。*相場はいつもきれいに理論値で形成される訳ではない

 昔からCTA( Commodity Trading Advisor)などという "トレンドフォロー型” のファンドがあって「流れ」に身を任せる手法が脚光を浴びた時期もあったが、あれは商品市場など取引量が少なくニッチ(隙間)なマーケットに特に有効だった。取引参加者が多く、市場流動性の分厚いFXや日米株式市場では「理論値の壁」が厚く突き崩せない場合が多い。

 だがここ数年の「市場のAI化」が変化を起こしつつある。

 ひたすら「最適解」を求めるAIはその時々で最も儲かるマーケットに傾斜しがち「人」のように「お腹が一杯」になんてならないし躊躇いもない。今の市場を見る時に気を付けなければいけない点だ。

 例えば2022~2023年を「投資」で見ると、主要市場はほとんど不調。2021年末比プラスなのは英FT(+0.3%)とWTI(+15.5%)、日経平均(+12.1%)ぐらいで、2023年もプラスを継続しているは日経平均だけ。だからAIが「買い」の指示を出すのは当然かもしれない。これはAIの弱みとも言えるのだが、彼らは既に確定した過去のデータしか反映できない。実は「将来価値」で動くマーケットと相性がいいとは言えない

 FRBの「利上げ」停止 → 米国債の急騰(金利急低下)でせっかく売られた「ドル円」だが、気が付けばモゾモゾと「買い」=「円売り」が膨らみ150円台半ば。一向に下(円高)に向かう気配を見せない。これも「市場のAI化」の弊害と筆者は見ている。過去2年のデータでは「ドル円買い」の収益は圧倒的であり、なおかつ「キャリー」で金利差+5%のリターン。プログラムにこれらのデータをぶっ込めばドル円は「買い」にしかならない

 だが、それでも「ゴリラとバナナ」の原則は存在する

 「人」がアナログでこつこつ売買していた時に比べれば、HFT(High Frequency Trades、高頻度取引)などAIが手掛ける取引は密度も濃いし、「第六感」など介入しないので継続する時間も長い。だが市場流動性は有限であり、みんなが買い続ければ必ず終わりが来る。この点を勘違いして破綻したのがLTCM(~1998)であり、ノーベル経済学賞を受賞したような人(LTCMを率いたショールズ博士)でも間違えたりする。

 そう言う観点から今の「ドル円」を見ると、まだまだ「バナナ」を食べ足りていない中途半端に「ドル売り介入」を臭わせてしまったため、多くの市場参加者が「買い」の機会を待ってしまったこともある。

 +5%のリターンというとアメリカの「お金持ち」が短期米国債を購入して得られる利息と同等であり、裸一貫のトレーダー達にとってはまさに涎モノ。相場が下がる(円高)気配が見えない以上、どうしても 金利差を狙った「キャリートレード」。ー 頼みの綱は「円」「JGB」|損切丸 (note.com) に走らざるを得ない。まるで伸びたゴムのように元の「円安」に戻る相場を見ているとそう感じる。

 だが天邪鬼の「損切丸」の警戒心は高まる。根本には 旅行に行くなら「日本」。ー 貿易赤字解消 → ≓ 「円安」に歯止め?|損切丸 (note.com) による潜在的な「円買い」需要がある。「キャリートレード」がどこでお腹一杯になるのか米国債が売られて金利が上昇しているのにドル円が下がったりすれば、それは1つの "サイン" になるだろう。

 中国の不動産ブームも終わる、終わるといわれて10年以上経ってしまったが、そこは14億人という人口の多さが影響した。だが蓋を開けてみればやはり "クラッシュ"「無理は通っても無理」の典型だ。

 「流れ」に乗るか、「逆張り」で棹さすか

 いずれにしてもタイミングが重要であり "サイン" を見逃さない事。特に今は時代の大きな転換期に差し掛かっており、何かが壊れようとしている。見極めには慎重を期すべきだし一定の我慢も必要。筆者もかなりの緊張感をもって相場を見つめている。

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