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ECBがFRBを超える日。ー 中央銀行が掲げる金融政策の "目的" の違い。

 「1ヶ月の電気代が13万円」(イタリア)
 「ガソリン満タンで@17,000円」(イギリス)

 何故1ヶ月先の事を ”予言” と言う形にしたのか判らないが、とにかくECBが7月理事会で+0.25%「利上げ」する事を決定欧州国債金利は素直に金利上昇で反応し、ギリシャの10年国債金利はあっさり@4%越えかつての「高金利国」イタリア、スペインがこれに続く。

 ここで日米欧の中央銀行が課されている金融政策の「最重要課題」をおさらいしておこう。それぞれ中央銀行法で定められているのが:

 FRB:「完全雇用」
 ECB:「物価」
 日銀:「政府との経済政策との整合性」(日銀法第4条)

 2021年央までのように「過剰流動性」で ”金利が死んだ” 状態では気にする必要もなかったが、現在の様に「真性インフレ」に突入すれば  を理解しておかなと、今後のドルやユーロ、円の金利、しいては為替、株式市場などの市場動向を見誤る

 ECBについては、第一次世界大戦後の「ハイパーインフレ」を教訓とした Bundesbank(ブンデスバンク、ドイツの中央銀行)の精神を引き継いでおり「物価」「最重要課題」ほんの半年前まではJGBと共に「マイナス金利」の仲間だった盟主・ドイツの10年Bunds(ドイツ国債)はあっという間に@1.4%台。かつての ”インフレファイター” が牙を剥いている。

 *「損切丸」は某・大手邦銀でよりによって「ポンド危機」「欧州通貨危機」があった1992年前後にドイツマルクや英ポンド金利を担当ユーロの前身に当たるEMS(欧州為替相場メカニズム)で当時問題になったのが「強過ぎるマルク」IGメタルなど労組が大幅な賃上げを強硬に求めたため、景気が減速しているのにブンデスバンクは「利上げ」政策金利は@9%を超え@9.75%まで上がったが、1年物が@7%台という強烈な逆イールドになった。最終的に「危機」収拾のための大量資金供給でマルク金利は@3%まで▼6%以上も急落したが、リセッションになろうが「通貨危機」になろうがとにかく「インフレ抑制」最優先ということを思い知らされた。

 比較対象としてFRBの事も書いておこう。金融政策の目標は1929年の世界恐慌の教訓から「完全雇用」「株価暴落」が未曾有の大不況を起こした経験から「株価維持」も隠れた目標の1つになっている。実際アメリカの「国富」は「株の時価総額」に集約されており、今回の株価の調整で46兆ドル→37兆ドル(4月末)と▼10兆ドル近く「国富」が吹き飛んでいる

 1970~1980年台、「アメリカは死んだ」と言われた時期がある。遠因となったのが "レーガノミクス" 後の「インフレ」対策として10%以上に引上げられた「高金利政策」NYダウは全く上がらず、まるで今の日本同様20年以上苦境に喘いだ。それ以来、株価維持がFRBの金融政策の ”隠れ目標” となった。いわば「株本位制」である。

 「3%」の分水嶺。ー「株」か「米国債」か。「インフレ」と「潜在成長率」。|損切丸|note で米国債金利の上昇が鈍っているのはそのため。株による「国富」はアメリカ経済の最大の強味であるが、同時に ”株が崩れたらアメリカは終り” 。景気も雇用も株価次第といっていい。

 逆説的だが、現米政権は「株価維持」を優先させ過ぎて ”バイデンフレーション” の衝撃。|損切丸|note を招いている「インフレ」を軽視した結果「利上げ」が後追いになり、株安を招く悪循環。このままでは いつか来た道。|損切丸|note 1980年台の「死んだアメリカ」の再現になる。

 ヨーロッパはアメリカと事情が異なるドイツの株式時価総額は2.3兆ドル(除.固定株)に過ぎず、アメリカのように株価下落が直接リセッションに結び付く蓋然性は低いむしろ問題は「インフレ」。もともと高いVAT(付加価値税)等で欧州では物価が上がりやすい 冒頭で書いたように日本では考えられないほど電気、ガス、ガソリンの値段が急騰しており、悪影響は深刻。この「インフレ」抑制が最優先になる。

 ここからの金利上昇ペースはアメリカを上回り、ECBの行動は日本人には想像が付かない程急激なものになる可能性が高い7月の「利上げ」はその ”狼煙” であり、天然ガスで@5ドル以下(NY先物)、原油は@80ドル割れ(WTI)ぐらいまで続くだろう。おそらくリセッションも辞さない

 では日本、日銀はどうか。最優先は「政府との経済政策との整合性」

 前々政権、前政権では経産省主導だったが、現政権は明らかに財務省主導。つまり「財政健全化」が至上命題であり、**それ故の日銀総裁の金融緩和継続、「値上げ受容」の強硬発言と読むのが正解だ。

 **実は2021年央に「お先に!」 ー 着々と進む日銀による「ステルス・テーパリング」。|損切丸|note で欧米に先行したJGB(日本国債)だったが、ここへきて財務省寄りの「無制限国債買いオペ」で金利上昇を無理矢理抑え込んだのは何とも皮肉その結果「円安」で国民が負担を強いられる羽目に。このままでは「国が滅んでも財務省は滅ばない」結果になる。

 極端な話、ドル円が@150円になろうが@180円になろうが関係ない。実際「為替レートは金融政策の目標ではない」と言い放っているし...。まあ日銀法で定められているのだから総裁の個人攻撃は若干可哀想でもあるが、これでは「円安」は不可避。ある意味 "恐ろしい国" だ。

 米国債BundsJGBのチャートを見ていて気が付いたのだが、実は2018年に一度国債金利は上昇を始めていた。つまり「インフレ」は既に始まっていた可能性が高い(筆者の個人的意見は2016年~)。そこへ不幸にも「コロナ危機」が起き、あろう事か画期的な「信用緩和」で2兆ドル(≓250兆円)もの「お金」がばらまかれた

 「インフレ」というものは日本の「デフレ」、あるいは世界的「ディス・インフレ」のように20年以上に渡る長期循環なので、本来「金融引締」が行われるべき2020年に、逆に実施された「大規模金融緩和」が現在の急激な「インフレ」を引き起こしたのは、ある意味当然とも言える。

 まあ日本に限らずアメリカもヨーロッパも "生活民" は相当な覚悟が必要になる。 物価も賃金も上がる「アメリカ型」と、どちらも上がらない「日本型」はどちらが幸せなのか。|損切丸|note 悩みは尽きない。



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