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FRBの "本音" 。マーケットの "願望" 。

 前稿.「米国債」と「米株価」、どっちが正しいの? Ⅲ - 米CPIの中味。|損切丸|note でFRBの "本音" について述べたが、「損切丸」の見立てはそれ程ずれてはいない。FED Dot Plot (  標題添付)を見るとターミナルレート@5~5.5%の理事も数人おり、@4.75%止まりですぐ「利下げ」転換を "要求" しているマーケットに釘を刺した印象だ。

 これを受けて米国債はやや売られたが、それでも "要求" は取り下げない模様。細かいことを言えば、2月FOMCで「利上げ」幅が@0.25%になることを勝ち取った(?)が、果たしてそんなに上手くいくのか

 「インフレは一時的」と言い張って2021年に政策判断の間違いを犯した "前科" があるだけに、「今回もFRBは間違っている!」と吠える向きもあるが、くれぐれも勘違いしないこと。何度も指摘しているが「利上げ」「利下げ」を決定するのは中央銀行であってマーケットではない。いくら「株安」で困っているとしても、 "願望" で価格形成を行おうとするととんでもないしっぺ返しにあう。筆者の見る限り、2021年の "前科" は極めて政治的なもので今回FRBの見立ては間違っていない

 実際金融の "緩み" を見てWTI(NY原油先物)は反騰の気配を見せており、「インフレ」に関しては気の抜けない状況が続くエネルギー価格については「戦争潰し」のための安全保障政策も兼ねているため、株式市場しか見ていない投資銀行業界の思惑よりFRBはタカ派を維持する蓋然性が高い。

  "本音" "願望" という意味では、昨日発表の「日銀短観」も興味深い。「短観」は9,000社以上の企業アンケートに基づくものであり、これだけ多数のサンプルを取った統計は世界でも稀。極めて「日本的」である。

 停滞する製造業、e.g., 大企業 9月+8 → 12月+7、に対して非製造業の回復が目立つ、e.g., 9月+1 → 12月+19。これはパンデミック収束による経済活動再開で飲食、観光などが戻って来ていることを反映しており、逆に製造業は中国の工場停止などで半導体等「サプライチェーン」が滞っていることが影響している。この時点では中国の「ゼロコロナ政策廃止」は反映されておらず、今後どうなるか注目される。

 中味を見ていくと色々面白い事がわかる。

 注目されるのは「需給判断」のところで大企業が @0 なのに対し中小企業が@▼12、つまり「供給過剰」のままであること。東京の飲食店数が飛び抜けて多いこと ↓ や住宅の供給が住居者を上回っていること ↓ が示すように、生産性の低い小規模店舗・企業が多過ぎる

 その結果、経常利益見通し ↓ も改善する大企業に対し、中堅・中小企業では悪化。よくメディアで語られる「価格転嫁できない」の根幹がこれ。アメリカなら ”Crash & Build” で淘汰されるはずの「ゾンビ企業」の延命で全体の足を引っ張っている「和の国」日本の特徴といえばそれまでだが、「失われた30年」を終わらせるには避けて通れない "痛み" でもある。

 もう一つ興味深いのは「雇用」DI ↓ 。

 相変わらず大企業、中小企業の別なく「人手不足」が深刻2023年度の採用計画も大幅に増加しており、ここでも苦境に陥るのは中小企業だろう。おそらく今後は「人手不足」倒産が加速する。

 そして筆者が大きな "違和感" を感じたのが「物価DI] ↓ 。

  販売価格の見通しが+3~5%にもなるのに、全体の物価見通しが1~5年後に+2.6~2.0%に留まるのは不自然「人手不足」が深刻なら尚更だ。大手企業の中には+5~6%の賃上げを断行するところが出てきており、+2%の物価上昇で済むはずがない。単なる "願望" なのか、それとも政府・日銀への "忖度" なのか。いずれにしろこの "アンケート調査" には疑義がある。

 日本なら「団塊の世代」▼8百万人世界的にはアメリカの▼4,000万人を筆頭に「ベビーブーマー」の働き手がいなくなる「人手不足」は全世界的現象であり、増して中国との「サプライチェーン」を断つのであれば「人件費上昇」は不可避。日本だけが例外ではない。

 実際半導体工場やグーグル、IBMなど日本への投資額は増加傾向にあり、 ”黒船” が高い収益率+高賃金を背景に優秀な人材の採用を強化していくのは確実。そういう事を考慮すれば日本の「インフレ」の本番はこれから「賃金上昇」→「物価上昇」のメカニズムが動き出すはずだ。

 「国債無制限買取オペ」で金利上昇を抑え込んでいる日銀・財務省だが、やはり「無理は通っても無理」"本音" では企業経営者も官僚も「覚悟」しているのでないかアメリカも日本も "願望" だけではどうしようもないこともある。2023年はそういう事を思い知る年になりそうだ。

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