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いつか来た道 ー 「科学」に沿って果敢にリスクを取った者のみが果実を得る

 「やはり間に合わないか。いつか来た道だな...」

 @161円まで突っ走った「ドル円」今回の「円安」とイメージが重なるのが「ポンド危機」(1992)。当時はERM(European Monetary System)で欧州統一通貨を目指していたが英ポンドも参加予定だった

 変動制限ライン(上下2.25%)を維持するために割高になったままのポンドに目を付けたのがショージ・ソロス氏BoE(英国中銀)による「ポンド買い介入」との闘いになったが、 ”弾” の尽きたBoEが敗れポンドが暴落した

 この時対応を迫られたBoEは即日で+2%、+3%と立て続けに「利上げ」(@10%→@15%)したが時既に遅し。結局ERM離脱を決め、ポンドはフリーフォール。その後+5%もの「利上げ」を取り消す結果になった

 この時起きたのがFXマーケットにおけるポンド金利の急騰ソロス氏をはじめファンド勢はこぞって「ポンド売り」に殺到したため為替直先(FX Foward)で調達するポンド金利が暴騰し@100%を超えた。それでも通貨の下落速度が上回れば@100%の金利を支払っても儲かる訳で@200%に達してようやく「ポンド売り」が止まった

 一旦相場が暴れ出せば「為替介入」は効かない。その事は財務省も認識しているはずで、いかに2兆ドル「外貨準備」があると言っても溶ける時はあっという間「ポンド危機」同様怖いのは ”弾切れ” 。そうなっては打つ手がなくなってまさに「円危機」”弾” を出し渋りしている可能性もある

 1992年の危機では相手がソロス氏=「人」だったが、今回厄介なのは相手が「AI」である事。「人」が相手なら「意表を突く」「裏をかく」など心理戦も展開できるが「AI」ではそうはいかない。何しろプログラム通り淡々と「円」を売ってくるだけ。財務官が記者会見で何を言おうと揺らがない

 そして本質的に最も違うのが圧倒的な「円」の「実質マイナス金利」

 @0.10%の「円」を借りて@5.31%の「ドル」で運用できるのでプログラムは「円売り」で動くだけ。対ポンドもユーロも同じ理屈で、このままでは「円全面安」は避けられない。だから急がれる対策は「利上げ」になる

 だが歯痒いかな、財務省も日銀も決定をズルズル先延ばしするばかり。そこには「FRB頼み」が透けて見える。今もPCE価格指数 ↓ など物価指標が軟化して「利下げ」が早まるのを祈っている状況

 5月米PCE価格指数 予想 +3.4% 前月 +2.7%
 コア指数 予想 +2.6% 前月 +2.8%

 そもそも指標が「利下げ」前倒しを示唆するかどうかも微妙だし、米国債市場では2025年にかけて既に▼1%以上の「利下げ」を織り込んでいるのだから日銀が何もしなくて済むというのは虫が良過ぎる。結局追い込まれて "投機筋" のせいにしたいのだろう。いかにも「減点主義」の日本官僚らしい

 もっとも「ドル円買い」=「キャリートレード」が必勝かというとそんなこともない「ポンド危機」同様「円売り」が過ぎればFX Fowardで「円金利の暴騰」が起きるかもしれない

 「キャリートレード」円買ドル売 ≓「邦銀の外債投資」ドル買円売

 FX Fowardにおける「需給」はほとんど ↑ これで成り立っている「キャリートレード」で売るための「円」は邦銀が供給している訳で、彼らの「外債投資」のための「ドル需要」と釣り合っている。だが▼2兆円もの損を出したN中金や数千億円もやられた地銀勢の「需要」減少は確実*この状況で「円売り」が突っ走れば思わぬ「円金利急騰」も有り得る

 *「いや、逆に円の方が危ない」東北大震災(2011)が起きた時に東京市場が開く前の日曜日に会議が開かれたが、参加者のほとんどが「邦銀がドル調達に殺到するからドル円の金利差が開く」と主張した中、「損切丸」だけが "逆" を説いた震災は「日本危機」なので邦銀が一斉に「円」の窓を閉めると読んだからだ。これは日本人の習性 ≓「あ・うん」を理解しないと判らないが、結果は「円金利」が@5~10%まで急騰。他の外銀が大やられする中、筆者のいた銀行だけが難を逃れた。それどころか「円」が足りなくて困っている顧客に貸してあげる事でその後の営業活動に貢献した

  "逆の目" が出れば今度はドル円が3日で▼25円も暴落した「LTCM型危機」(1998)。まさに 「円安」が「円高」を呼ぶ ー 「キャリートレード」だって本当は怖い|損切丸 (note.com) 。いずれにしてもろくな事になりそうもない(苦笑)

 ただ政府・日銀がすべき事は "口先介入" や "懇親会" ではなく「科学」に則って為すべき事を為す事。何しろ相手は膨大なデータで学習した理論派・「AI」大幅な「実質マイナス金利」を変えなければプログラムは更新されない。そう言う意味ではもう ”黒船頼み” の政策は限界「政策」でも「事業」でも「投資」でも「科学」に沿って果敢にリスクを取った者のみが果実を得る。厳しい時代になったが、逆に「面白い時代」でもある


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