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コロナ後の世界 - 「グローバル分業」は断裂へ。

 日本でも東京の感染者の増加が一旦止まり、ほっとしている人も多いかもしれない。マーケットも少しずつ「コロナ後の世界」を見始めている。

 「損切丸」は専門外だが、例えば日本の個別株でも今後の社会変革を見越して、遠隔学習・診療などの設備を提供する企業やウェブ会議、宅配関連の株などが活況のようだ。これらは所謂「流行り物」であるから、どれだけ「オーバーシュート」(買われ過ぎ、元々は相場用語?)しているかは吟味する必要がありそうだが、ともかくプロは動き出している。

 ここではよりマクロな視点で「コロナ後」に世界情勢がどうなるのか、危機前後の流れも俯瞰しながら「物価」に焦点を当てて考えてみたい。

 2008年リーマンショック以降の大きな流れは、「アメリカの退潮」とそれに合わせた「中国の台頭」である。特に銀行を中心とした金融資本主義で世界を席巻してきたアメリカ経済がリーマン危機以降大きく傷み、そこへ中国が「世界の工場」として躍進してきた。

 共産党一党独裁という特殊な政治体制の下、生産性やコストを度外視したとも思える猛烈な生産活動で、この10年膨大な量の商品を安価で世界に供給してきた中国。「Dis-Inflation」などと呼ばれ、事実世界各国がこの「グローバル分業」の恩恵にあずかってきた。「コロナ前の世界」がこう ↓ 

コロナ前の世界

 加えて中国が14億人を抱える「巨大消費市場」に変貌を遂げた事から、ドイツ、日本なども輸出相手国としての中国を重視するようになった。

世界の人口

 その後中国の経済成長に伴い国内の人件費が上昇。更にトランプ政権が「覇権争い」のための「関税合戦」を仕掛けた事から、各国企業はベトナムや東南アジアへと生産工場の移転を活発化させていた。

 そんな中起きた今回のパンデミック中国への過度の生産依存問題が露わになり、マスクに代表される医療用品や自動車部品、その他多くの工業・生活用品が滞り、他国の経済的ダメージが壊滅的になってしまった。「グローバル・チェーン」の崩壊である。

 更に各国のマインドを豹変させたのが、この「不足物資」を逆手にとって中国が政治利用してきたこと。「マスク外交」がその典型だ。おそらくこの事態に安全保障的な危機感を抱いた各国政府は、今後中国からの生産拠点の撤退・移転を急ぐだろう。特に「中国陣営」と対峙する「アメリカ陣営」は、戦略物資について自前で調達できる体制作りが急務になる。

 「コロナ後の世界」のイメージがこれ ↓ 

コロナ後の世界

 アメリカ、中国両国に自動車を中心とした多額の工業製品を売っている日本とドイツの立ち位置が微妙になりそうだが、まず日本はアメリカよりのスタンスになるのではないか。ドイツに関しては既に中国寄りの生産体制にシフトしていたため「足抜け」は簡単ではなさそう。同じEU内のイタリアもどっぷり中国支援に浸かっていることも足枷になるだろう。ボリス首相まで感染したイギリスは「中国抜け」に舵を切って、かつての宗主国「コモンウェルス」と共によりアメリカ寄りになるだろう。

 それでは「コロナ後の世界」では何が起こるのか?大きな景気後退が起きているのはリーマンショックと同じだが中味が全然違う危機時に必要な物資が供給されなかったことを「アメリカ陣営」の国々は決して忘れない。日本でも希少金属が不足したときに中国以外からの輸入対策を取ったが、あれのもっと規模の大きいやつだ。国民の命に関わるという意味では、まさに「戦争」=安全保障問題である。多少のコスト増は問題ではなくなる

 リーマンショック後のような「デフレ期待」もあるようだが、筆者は正反対の立場だ。これまでの中国からの「コスト度外視」の商品供給が安すぎたのであって、「中国抜き」の生産体制を構築すれば物価は全体的に上昇する。例えばマスクは今の1枚@50~60円が高いわけではなく、かつての@10~20円が安過ぎた、と考えるのが妥当だろう。

 おそらくその「答え」は金利市場が出す。主要国による猛烈な資金供給で今はなりを潜めているが、物価上昇が鮮明になれば猛烈に動き出すだろう。持っている「お金」の価値が下がるとなれば、金利はそれを必ず反映する。仮に物価が年10%上がるなら、1年の金利は10%になるのが整合的だ。今のような「実質金利マイナス」のような異常事態はまず維持できまい

実質金利G8(after CDS)@15 Apr 20

 今回の危機での財政出動は現時点で900兆円弱だそうだから、国家債務はその返済を考えたら絶望的な金額に膨らむグロ-バル・チェーンの分断で物価が上がるのはむしろ国が臨むところ。だがそのコストは国民持ちだ。

 今回のパンデミック後は急激な景気回復も予想されており、その時の金利市場の動向が鍵を握ると思う。まだ気が早い、と思われるかもしれないが備えておいて損はない。きっと為替や株式市場にも甚大な影響が出るはずだ。

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