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"変化しない時代" の終焉と「金利変動リスク」- 鍵は「コスト」「資金繰り」。

 ” YCC(イールドカーブ・コントロール)上限引き上げは実質「利上げ」”

 ドル円が▼10円以上暴落するきっかけになった日銀の決定は市場を揺るがしたが、たった+0.25%でなぜこんなに動いたのだろうか。対になるFRBの「利上げ」はもう+4%以上に達しているのに、である。

 これは取りも直さずマーケットが「将来価値」を取引しているから。ドル金利のように「利上げ」を十分に織り込んでいればそれは既に ”終わった事実” であり取引材料にならない。対照的に全く予想外の日銀のアクションは急激に相場を動かした

 そして最も大きいのは日本に "変化しない時代" の終焉をもたらした事115円から152円までの「円安」で狼煙が上がり、円金利に波及している。

2022年9月現在:
 1年未満の期間 短期プライムレート @1.475%
 
1年以上の期間 長期プライムレート @1.25%

 皆さんは「プライムレート」というのをご存知だろうか。日本語訳では「最優遇貸出金利」優良顧客に対して適用される最も低い金利とということになる。但し*2009年1月13日から13年も動いておらず、長期を下回っている「短期プライムレート」は形骸化しており、実際には変動金利型住宅ローンでも@0.30~0.40%台が適用されている。

 人件費等、全てのコストを加味した銀行貸出の「採算分岐点」が@1.5%と目されており、中小・零細企業向けにはこの@1.475%を下回る金利で貸出は行われていない。要注意なのはこの「優遇」@1%を下回るような変動金利ローンはあくまで短プラからの「優遇」に過ぎず、銀行はこれをいつでも撤廃出来る。特に「お金」が足りなくなってくると、金利は「採算分岐点」の@1.5%まであっという間に引上げられてしまうだろう。

 日銀が "動いた" ことでドル円も上へ下への大賑わいとなっているが、巷で最も熱いのが「住宅ローン、変動型か固定型か」の議論。金利が動かない、もしくは下がってきたこの30年間は、いわゆる「金利リスク」を気にする必要がなかったが、「インフレ」時代に突入した2023年以降はそうはいかない鍵は「コスト」と「資金繰り」。嫌でも考えざるをえなくなる。

 変動固定の選択の前にもう一つ「返済方式」にも触れておこう:

 毎月の返済額を低く抑えるために「元利均等方式」が一般的だが、企業貸出などでよく用いられるのが「元金均等返済」

 例えば5,000万円を20年@2%で借りるとすると:

 「元利均等方式」 毎月返済額▼25.5万円 支払総額▼6,116万円
 「元金均等返済」 当初返済額▼29.2万円 支払総額▼6,050万円

 「元金均等」の方が「資金繰り」はキツいが支払い総額では100万円近く少なくなる。これは当初から借入元金の返済を進めていくからで、この傾向は複利効果もあって①期間が長く②金利が高くなるほど顕著になる。仮に金利が@4%まで上がれば、支払総額で「元金均等」7,100万円「元利均等」7,358万円と差額が大きくなる

 この点も踏まえた上で、現在「元利均等・変動金利」20年ローン5,000万円@0.40%で借りている人は  :

 毎月返済額21.7万円 支払総額▼5,213万円(20年間@0.40%と仮定)

 確かに1,000万円近く支払額が違ってくるので「固定金利」にするのは躊躇われる。だが銀行が「変動金利」を@3%に引上げると ↓ :

 毎月返済額28.0万円 支払総額▼6,722万円

 「金利」というものはかくも恐ろしい毎月の「資金繰り」がキツくなる上に支払総額も1,500万円以上増えてしまう住宅ローン金利が@7%にも達しているアメリカの大変さが判ろうというものだ。

 「日本の金利が@3%だなんて大袈裟な」

 "変化しない時代" を生きてきた30歳以下の世代がそう思うのも無理は無い。だがこれこそ ”Never Say Never" (世の中に絶対はない)。実際1990年代の「バブル期」には日本の住宅ローン金利も@7%台だった。

 「少子高齢化」で低成長に陥っている日本で、かつてのような高成長が見込めないのはその通りだが「インフレ」は別。特に「通貨安」に見舞われた場合、金融政策は ”待ったなし” に追い込まれることがある。これは何も今のトルコアルゼンチンのように「デフォルト」の瀬戸際にある国だけでなく、かつてイギリスでも1992年の「ポンド危機」で直面している。政策如何ではドル円が再び@150円、160円に向かわない保証はない

 怖いのは「金利上昇」で「コスト」「資金繰り」が変化してしまうこと日本人にとっての「最適投資」2023。- 円金利上昇で狭まる選択肢。|損切丸|note で「自宅投資」( ↓ ファイルご参照)の解説をしたが、ここでも「金利」が動いてしまえば「投資」は確定できない

 実はこういう「金利リスク」の計測企業の設備投資「株」「商品」の世界でも緻密に行われており、全ての「投資」における基本中の基本10年以上に渡り「グローバリゼーション」の恩恵で「低金利」「過剰流動性」が続いた事の方が異例であり、これで「普通」に戻るだけだ。

 「デフレ」しか知らない日本の若年層は実体験がないだけに戸惑うことも多いかもしれないが、金利の世界で+2~3%ぐらいの「利上げ」は極々「普通」の事コンマ何%のことに囚われていると大筋を見誤る

 マーケットを見ていると混乱するかもしれないが、要は今後「コストを確定させる意識」が「生活」にも「投資」にも重要になる。ローン金利は安いに越したことはないが、「将来価値」で考えて本当に安いのか、一度考え直してみることをお勧めする。

 人間は元来自分に甘い生き物くれぐれも「気持ち」に引きずられないよう「あの時~すれば良かった」は避けたい。迷ったら「半分ヘッジ」しておけば、どちらに行っても後悔は減らせる。「多分大丈夫」とたかをくくって大変な目に遭ってきた「損切丸」として、老婆心ながら。

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