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日本を決定的にダメにした「将来価値」の「軽視」。

 東京都の陽性者数が600人台になり、早くもリバウンドが警戒されている。オリンピックの開会式(7/23)あたりに再度 ”山” がやって来そうと感じている方も多いのではないか。

 しかし「感染症」と「マーケット」は良く似ている。陽性者数の増減のグラフ ↑ 「日経平均」のヒストリカルチャート ↓ とダブって見えるのは筆者だけだろうか?(病気。笑)。

日経平均(1950~)

 確かに共通点はある。それぞれの状況を動かす材料や要因= ”前提” が「将来価値」を決定するので、常に先を見通す必要がある点だ。

 *分科会と政府の「感染症」に関する発言には決定的な違いがある。端的に言えば前者が「2週間後」に言及しているのに対し後者が「2週間前(~現在)」について述べている事。これでは議論が噛み合うはずがない。

 *分科会尾身会長の人となりについては存じ上げないが、SARS(2002~2003)対策で陣頭指揮を取ったこともあるとの事。「感染症」対策についてはその "本質" を理解しておられよう。先を見通して先手先手で対策を打って行かなければ、場合によってはウイルスが蔓延した村や集落そのものを焼き払わなければいけないような事態も有り得るシビア」な世界だ。

 仮にも「リスクの世界」に長く身を投じていた「損切丸」としては尾身会長の発言に強いシンパシー(Sympathy、共感)を覚える。程度の違いはあれ、共に「過ぎてしまえば台無し」の世界。まがりなりにも ”起こりうる未来” について note. してきた者として、こんな状況下「不確定な未来」について「預言」し続けるのはさぞかし大変だろうと推察する。

 「失われた日本」の元凶は、この「将来価値」の「軽視」にある

 ・官僚組織の「前例主義」

 ・過去の「訴訟リスク」を優先した「薬事行政」

 ・銀行、企業等の「減点主義」

 ・「確定事実」だけを報道するメディア

 ・「結果」が出た物にしか払われない「研究費」

 例を挙げればきりが無いが、どれも焦点が当たっているのは「確定した過去」であり、不確定ながら期待される「将来価値」の「評価」は行われない** "現状維持思想" の根は深い。

 **「向上心を持って必死にトレーニングに取り組まないと "現状維持" できない」。かつてイチロー選手が語っていたが、彼ぐらいの超一流選手になると "現状維持" と思った瞬間から衰えていくので、毎年上を目指して追い込んで練習しないといけない。だからあれ程の選手なのに毎年バッティングフォームを変えていた。何やら示唆的だ。

 だが戦後の復興期や高度成長期など「将来価値」を「重視」している時期もあった旧三井銀行が倒産寸前のトヨタに融資した件はその最たる例だ。

 「もうこれ以上豊かにならなくていい」

 世界有数の経済大国に上り詰めてバブルを経た後、 "現状維持思想" が蔓延。そこからこの国の没落は始まっている(イチロー選手の指摘通り)。

 「一度決めたことをやり通す」のは日本人の "美徳" でもあるが、同時に***「一度決めたことを変えられない」のは "弱点" でもある。ここにも「将来価値」の「軽視」が強く作用している。

 ***第二次世界大戦時の「インパール作戦」が ”日本的失敗例” としてよく挙がる。戦況の変化で本来「撤退」すべきだったが、作戦を強行して被害が拡大。理由は簡単だ。「やってみないと被害が出るかどうかわからないから」。何やら今回のオリンピックと重なる部分は多い。

 「パンデミック」で ”前提” が変わったのにオリンピックは「強行」。結局政府、医師会等が繰り返すのは詰まるところ:

 「いいから黙って自粛しろ」

 「オリンピック中止」と「緊急事態宣言」による経済ダメージの比較、あるいは医療体制拡充のためのコスト等、「将来価値」の「評価」も「説明」もないのだから、多くの人が不満を持つのも無理はない。

 マーケットなら、例えば「インフレ」「将来価値」そのもの。あるいは最近市場を賑わした「米長期金利の低下」について:「FRBが低金利施策を2年以上続ける」を ”前提” として長短金利差が開く「スティープニング」取引を手掛けていたが、6/16 FOMCで突如「+5BP利上げ」**** ”前提” が大きく崩れてしまった。こうなればプロのトレーダーに「損切り」の躊躇はない「将来価値」を「軽視」する日本人が苦手とする思考法である。

 ****欧米では ”Risk & Reward” が基本「リスクが得べかりし利益に見合うか」。この場合、FRBのスタンスが変わってしまったので「スティープニング」取引はリスクが利益を上回る→「損切り」となる。

 ワクチン開発もそうだが、アメリカは「将来価値」に対して莫大な投資を決行する。反対に日本は「得られるかどうか判らないもの」に「お金」は出さない。薬事承認は遅れ「得べかりし利益」は全部他国に持っていかれる。この20年間のNYダウと日経平均のパフォーマンスの差はこれに尽きる

 今日(6/23)ドル円は@111円台を付け、更に "円安" が進んだ。*****「円安は日本経済にプラス」などと「昭和プロパガンダ」を繰り返す ”識者” もいるようだが、馬鹿な事を言って貰っては困る。日本経済は既に「輸出型」から「内需主導型」に移行しており、「通貨安」は購買力を削ぐだけだ。(筆者を含め)円建て資産を保有する人にとっては不快でしかない。

 *****トヨタのようなグローバル企業も「 "円安" になったからすぐ工場を日本に戻しましょう」なんてことにはならない。まして「将来価値」を「軽視」するような国に投資するような甘い経営者はいない

 幸い「コロナ危機」は今の日本が抱える問題点を丸裸にした。この国が蘇るには、まず評価の基準を「過去の実績」から「将来価値」へ変更する事。今のオリンピック開催を巡るやり取りを見ていると、その思いを強くする。

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