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日本の資金繰り研究 @2020.7.10。- 「デフォルトリスク」と背中合わせの「資金繰り担当者」的考察。

 大きな変化は表向き見えてきていないが、じわじわと国債を中心に資産が増えている日本銀行。今回は「資金繰り担当者」としての考え方に沿って解説を加えていきたい。

 「損切丸」を含め、「資金繰り担当者」は保守的な考え方の人が多い。なぜなら資金繰りがつかなければ企業も銀行も経営破綻するからだ。常にデフォルトリスクと背中合わせのため、いつも「最悪の事態」に備えながら資金繰りを考えている。大事なのは6か月先、1年先、あるいは5年先を見通しながら戦略的に資金調達を行っていくことだ。

 そういう目で今回(7/10付)の日銀のバランスシートを眺めてみよう。

日銀バランスシート @10 Jul 2020

 理由はよくわからないが、今回は「政府預金」+13.4兆円に救われた。しかしこれを「最悪の事態」を想定して資金繰りを考えるとかなり危うい

 まず資産の増加についてだが、2019年6月末から1年間でほぼ+100兆円も増えている。メインの「国債」は ”着実に” +40兆円/年ほど増えおり、政策変更が無い限りこの傾向は今後も続く。そして今回の「コロナ危機」対策で「貸出」が+70兆円あまり増えている。年間で+100兆円も増えるのは、おそらく日銀としても「想定外」だったのではないか。

 そして「資金調達」に当たる負債サイド。これが波乱含みだ。「政府預金」については数字を追うと概ね10~20兆円で推移していたのが、急ごしらえの「危機対策」で財政資金のブレが激しい直近の最低値は3/31の12.6兆円だが、7/10時点の37.8兆円も2021年3月にはこの水準まで落ちると覚悟しなければならない。およそ▼25兆円だ。

 そして肝心の「当座預金」。これも直近の最低値が3/20の339.6兆円だから、そのまま読むと2021年3月末までに▼100兆円以上減ることになる。あくまで「最悪の事態」を想定して2021年3月までに不足する円の額は:

 資産増加 - +30兆円(=9か月分の国債増加)

 負債減少 ー ▼125兆円(=当座預金、政府預金の季節性の減少)

  合計  ー ▼155兆円(!)

 さすがにここまでの資金不足はないとは思うが、現実問題として▼60~80兆円ぐらいは見込んでおかなければならないだろう。これはいかに日銀といえどなかなかの負荷である。そして更に深刻なのがこれ以上*「入金予定」の見込みが立たないことだ。

 *「入金予定」とは即ち日本企業や国民の預金が増える事。しかし、パンデミックがなかなか収まらず景気回復が見通せない中、期待薄なのが現実。

日本の収支(Update 2020.7.10)

 これでは期間20年以上の超長期国債やETFはおいそれと買増しできないETF残高の増加に歯止めがかかって日経平均の上昇が鈍っているのも、超長期金利がじわりと上昇しているのも、この日銀の姿勢を反映した結果と推察される。**おそらく日銀内部では議論になっているはずだ。

 **引退してしまったので日銀担当者と直接話をする事はできないが、おそらく金融調節課から日銀生え抜きの雨宮副総裁あたりには報告が上がっているはず。もっともこんなことを表に出せば市場が大荒れになってしまう恐れがあるので、決してニュースにはならない類いの情報ではある

 「損切丸」が恐れているのは、この「資金不足」を解消するために政府が「ウルトラC」を繰り出すこと。例えば給付金第2弾として「1人100万円」配れば、「預金」もしくは「日銀券」が増えて一気に100兆円調達できる。秋口に解散総選挙を狙っているとすれば、あながち可能性はゼロではない。むしろ政治的には歓迎だろう。

 しかし...。ここまで「バラマキ」をやると今度こそ市中に出回る「法定通貨」が劇的に増えるため、需要が弱くても物の需給との比較で通貨価値の下落=インフレが起きるだろう。その結果として、円安、金利上昇などは覚悟しておかなければならない。

 「預金封鎖」「財産税」など第二次世界大戦後に起きた事態は、これまでは時代が違うから、と絵空事のような扱いだったが、どうも最近様相が変わってきているように感じる。ゴシップ系の週刊誌だけではなく、メジャーなメディアや経済学の先生方からもちらほら意見として上がってきている。

 「損切丸」としては、日銀のバランスシートという「現実」を見つめるにつけ、ますます「インフレ」が現実的なものに見えてきている。「日本の資金繰り」を考えれば考えれるほど、***他の結論を思いつかなくなってきた。▼100兆円足りなくなることを考えると、ちょっと身震いがする。

 ***もっと突っ込んで言えば、日銀が「国債売現先」のような資金吸収オペを拡大させるやり方はある。しかし▼50~100兆円もの資金吸収となると円金利市場で金利の急上昇を招きかねない「金融引締め」経験の無い銀行の担当者ばかりなら、なおさらだ。それは国債暴落の引金になる懸念もあり、全て「日銀のせい」にされてしまうので、「政治力」に長けた黒田総裁がその道を選ぶとはとても思えない。

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