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続・マネーマーケットの「鯨」ー 円金利が反転上昇したら何が起きるのか。

 予想通り米株式市場は「大統領選祭り」状態に突入しており、まさに「何でもあり」(苦笑)。「損切丸」はこの手の相場は苦手なので少し無視させて頂いて、もっと相場のベースになる話を展開してみようと思う。

 9.22に日本は流動性の「鯨」だ、という note を書いたがその続編に当たる。今回は円金利、特にJGB(日本国債)金利が上昇したら何が起こるか、フローチャートとともに考察を加えたい。

 まず「日銀バランスシート」の最新版@9/30が出ているのでそちらを。

日銀バランスシート @30 Sep 2020

 日本では9月末は半期末にあたり、銀行もバランスシートの「お化粧」をしなければならない。財政資金も様々な受取・支払が交錯するので9/30だけ切り取ると特殊な動きが多い。

 財政では「コロナ支援金」や今「不正受給」で話題の「持続化給付金」に加えて国債の償還+利払いで「政府預金」は▼17.4兆円と大幅減。銀行はリスクアセット算定の都合などから中央銀行「預け金」を厚くする傾向があり、振り込まれた「お金」がそのまま当座預金に滞留したと見られる。

 では「資金繰り」は安定したのだろうか。。無担保コールO/N金利は9/30には出し手のコール運用意欲が強く平均@▼0.061%と低かったが、10/1には@▼0.031%、10/5には@▼0.019%とゼロに接近。10月に入って2~5年債は@▼0.10~▼0.13%と頭が重く、本番はむしろこれからだ。

無担保コールON  日銀BS

 それでは「円金利」が上昇すると何が起きるのか400兆円余りの「外債投資」の大半が流れたと思われる「ドル」「米国市場」への影響を中心に考えて見る。これまでの想定フローチャートがこれ ↓ 

鯨スキーム

 「ゼロ金利」「異次元緩和」「黒田バズーカ」で国債を持って行かれ、巨額の「円」を押しつけられた日本の銀行。そのまま何もしなければ利益はゼロ。そこでまず目を付けたのが「米国債」だ。10年ほど前ならまだ名目金利が@1.50~2.50%もあり、*FX FWDを使った「円投」で多少のドルプレミアムを払っても長短金利差が稼げるため多くの邦銀が殺到した。

 例えば10年米国債が@2.00%で、3か月の「円投コスト」ドルプレミアム+50BP@1.00%になっても金利差@+1.00%の利益キャリーと呼んだりする)が計算できる。20年JGBでも金利が@0.50%に満たないような市場にいる邦銀にとってはまさに「垂涎」。反対側ではドルの出し手である外銀はこのドルプレミアム+50BP「フリーランチ」をおいしく頂いた。

 ここで邦銀が「外債投資」で払ったドルはアメリカの投資家の手に渡る。+3%程度の物価上昇を体感しているアメリカ人にとって金利@2.00%は単なる「損失」。従って受け取ったドルは株を中心にしたリスク資産に投じられ**「過剰流動性相場」を形成する。皮肉にも日銀による「異次元緩和」のメリットを最も享受したのは「米株式市場」だろう。

 **米国市場の取引規模からすると「4兆ドル」はさほど大きく見えない。しかし取引の殆どはファンドやデイトレーダーなど短期筋で ”売り買いトントン” の「ファストマネー」だ。長期滞留資金で「4兆ドル」は相場の動向を左右する「鯨」といっていいだろう。1日1兆ドル超を売買するFXでもトヨタのドル円売り50本(5,000万ドル)にビクビクするのも理屈は同じ。「売り切り」「買い切り」の玉は影響力が違う

 さて現在の米株式市場のベースにこの「鯨」がいるのは1つの真実であり、これを前提に考えると普段あまり関係ないと思っているJGBの動向が気になってくる。仮に「資金繰り」対策として日銀が①資金吸収オペ②国債買いオペの減額③国債売却に動いた場合、JGBの金利は+40~50BP上昇する事も考えられる。そうなると邦銀勢は無理をして「外債投資」をする必要がなくなり「鯨」は日本へ戻ってくる。その想定フローがこれ ↓ 

鯨反転スキーム

 ”反転” のタイミングやスピードにもよるが、米株式市場にはそれなりの売りが出るだろう。「外債投資」自体はほとんど為替リスクを負っていないので直接の円高圧力にはならないが、長く動かなかった「円金利」が動き出した衝撃から、FXトレーダーは「ドル円売り」に走るかもしれない。

 もっともこれは「円金利上昇」が「真性インフレ」或いは「官製インフレ=通貨価値減損政策」を伴わなかった場合「損切丸」で何度か論じている「日銀券増発」或いは「新紙幣発行」など現存する「お金」の価値を減じるような政策に走った場合、***ドル円は全く逆の動きになる。

 ***米銀の東京支店長から国会議員に転じたF巻先生をサポートするわけではないが(笑)、その時はドル円が@130円とか@150円とか、結構とんでもない動きになるかもしれない。何しろ日本人は同じ方向に一気に動く。外人にとってはありえない相場つきでかなりの脅威的らしい。

 FXのようにすぐ動くことを期待されると困るのだが、金利上昇のタイミングの予測は難しい。金利の場合、資金取引では「信用リスク」も絡むため、大相場では取引相手を見つけること自体が困難になる。ポートフォリオの図体もまさに「鯨」のようにでかく、FXや株のようにスパッと損切ったりポジションをひっくり返したりできない。動いた時は既に勝負あり。事前に周到に準備しておくことが肝心で「反射神経」より「想定力」が試される。

 本格的な金利上昇相場を経験したことがない現役トレーダーも多い。どういう混乱になるのか想像もつかず、壮大な「社会実験」になるだろう。できればその渦に巻き込まれたくないが、なかなか難しいかもしれない。

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