暴風雨

ついに金利もおかしい - 「暴風雨」圏内に。新しい形の「全市民型危機」。

 昨日NYダウは再度▼1,000ドル以上下げ、一時25,000ドルを割り込んだ。想定外の第四波である。アルゴもAIも十分に売り切れなかったのだろう。

 こうなると市場は対策を要求する相場に移行する。米国債市場では長短期とも金利が急低下。2、5年債は1%を大きく割り込んでいる。

$  FF- 2- 5- 10yr  29 Feb 2020(グラフ)

 もうFOMCを待っている余裕はない。明日にでも電話での緊急FOMCで利下げが決定されてもおかしくない状況だ。それも▼0.25%ではなく▼0.50%でないとマーケットから「不十分」と見なされ、株価は再度下落しかねない。この市場の声の呼応するようにパウエルFRB議長からは利下げを示唆する発言も出ている。既にFRB内で協議中と考えておいた方が良い。

 ヨーロッパも酷い状況だ。昨日欧州開けの国債市場(10年債)がこう。

ヨーロッパ国債@28Feb20

 弱小国の国債が売られ、反対にドイツやフランス国債が更に買われている。こういう売り買いを同時に行う手法はヘッジファンドの得意技であり、銘柄を入れ替えたい銀行勢の足元を見た取引である。米国債の急進を受けてさすがにイタリアやギリシャの国債も買い戻されたが、CDSが拡大していることなどを考慮すると依然予断を許さない状況が続く。

 銀行にはBIS規制(現在はBASELⅢ)という重い足枷が懸かっており、格付けなどによってバランスシートの掛け目が違ってくる。厳しい資本規制が課される中、銀行は低格付け債を外してバランスシートを縮小したい意向が強く、今後格下げが見込まれるような国債は売らざるを得ない。少しぐらいの損失(それでも▼OO億円単位)などお構いなしである。

実質金利G8(after CDS)@29Feb20

 「金利市場は理性的」「損切丸」はずっと説いてきた。確かに普段は株や為替に比べるときちんとした理屈で動く。しかし、いつもきちんとしていた人が酔った勢いで一旦暴れ出すと手に負えないのと一緒で、金利がおかしくなると手がつけられない。まさに「暴風雨」圏内だ。どちらへ舵を切っていいかわからなくなり遭難するリスクが増す。

 こうなると「マーケットの迷子」が増えてしまう。株の下落と反比例して買われていた金(Gold)やビットコイン(BTC)が急落したのが良い例だ。

 「株からの逃避先として買われるんじゃなかったの?」

 残念ながらそうはならない。リパトリエーション(Repatriation)と言って、投資家やファンドは株による損失穴埋めのために他の利の乗っている資産を売る必要に迫られる。最も標的になりやすいのが市場流動性の低いBold Markets。為替市場でウォンが買い戻されているのも同じ理屈だろう。

 株を上手く売って乗り換えたのにBTCでかえって損をした.. なんて方もいらっしゃるかも。「質への逃避」(Flight to Quolity)の王道はやはり「主要国の国債」。だが、これもいつまでも続く保証はない。なぜなら現在の金利市場は既に暴走を始めており、株や為替と何ら変わらないほど危なくなっているからだ。気は抜けないのである。

 しかしパンデミックも株式市場も「危機時の初動」が極めて大切である事を改めて痛感させされる。「株がちょっとおかしい」などと書いていたのはほんの1週間前(2/21)。あそこで逃げおおせた人は命拾いしたが、逆に中途半端にナンピンなどした人は地獄を見ているはず。まさに紙一重だ。

 「損切丸」銀行発の金融危機はない、と断じてきた。リーマンショック後の銀行に対する異常とも思えるほどの厳格な資本、流動性規制の内実を知っていたからだ。次に来るのは「全市民型」の危機で、「真性インフレ」は想定していたがまさか「パンデミック」が来るとは...。(想定が甘かった事は少し反省している)

 1週間の株価下落が▼12%に及ぶのは2008年のリーマンショック以来というから、これは紛うことなく「金融危機」である。確かに人的、経済的損失は甚大で、過去のどの「金融危機」と比べても遜色ない。しかも明確な処方箋がないところもやっかいなところだ。

 こうなると持久戦の様相を呈してくるが、企業も家計も「耐久力」が鍵になってくる。企業で言えば「内部留保」、個人で言えば「貯蓄」だろうか。何せ「収入」が激減するわけだから、今持っているお金で凌ぐしかない

 職を辞した「損切丸」が実感で判るのは「支払い」は待ってくれない、ということ。食費、家賃、保険料、税金、etc. etc...。お金はどんどん減る。

 特に借金の多い家計はかなりつらい。それは企業も同じだ。(過剰な貯蓄や内部留保は感心しないが)こうなるとやはり最低限の備蓄は必要、ということになる。何もない平時にどう暮らしていたか、その差が出る。

 東北大震災の時も筆者は「これで日本の社会は変わる」と期待したのだが残念ながらそうはならなかった。今回のパンデミックで露呈したのは、未だに日本は「昭和の発想」から抜け出していないこと。それは世界の中で日本の立ち位置がどんどん低下していることとも符合する。

 いわゆる「団塊の世代」約800万人が引退していく今こそ「昭和の発想」から抜け出すチャンス。このパンデミックは日本に差し伸べられた「神の手」かもしれない。「災い転じて福となす」になると良いのだが。

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