黒い渦

”note”な7か月を振り返って - 得体の知れない居心地の悪さの正体。

 「皆さんの1,000円は明日から100円になります」

 「悪夢」とまでは言わないが、最近こんなことを急に宣言されたらどうしよう、などと想像してしまう。なんとも得体の知れない居心地の悪さ「通貨の切下げ」、というやつだが決して絵空事ではない。古くは江戸時代の「徳政令」から第二次世界大戦後には「新円切換」と実例もある。

 仮にも銀行に29年勤め、そのうちの大半を「資金繰と金利の専門家」として働いてきた「損切丸」。仕事を通じて得てきた知識と実体験を反映させながら、少しでも読む方の参考になればと主に「お金とマーケット」について2019年4月からここまで7か月間noteを綴ってきた。しかし、この何とも言えない薄気味悪さは何だろう。筆者自身もうまく消化できていない部分もあるが、何となくその正体はわかっている。

 「お金の価値」が揺らいでいるのだ。

 清貧思想だの性善説だの言っても、結局人は「お金」を基本の尺度として様々な価値を計っている。特に銀行の資金繰りを起点に世の中の資金フローを見ていると、実体経済の生々しい現実を垣間見れたりする。だから余計に「お金」からものを計るクセがついてしまっているのかもしれない。

 銀行が経済の中心に座して回る貨幣経済ならそれで良かったのだが、ここへきて根底からその価値観が変わろうとしている。「お金の価値」がなくなってきているのだ。基本となる尺度そのものが揺らいでいるのだから、薄気味悪くもなろう。

 筆者が専門としていた「金利」の世界。「金利」はお金の値段とも言われるが、今やその値段が低価格どころか*マイナスになっている。単純に言えば「お金(=利息)をあげるから持っていって下さい!」ってこと。この日本でも、個人も企業も兆単位で「お金」を持て余している。

 思えば日銀の「マイナス金利政策」導入が「損切丸」のキャリアに引導を渡す結果になった。それまでの金利トレーダーとしての実績が吹き飛び、早期退職を考える大きな要因となった。「もうここでやれることはない」。実際「消えていく金利」は進行中で、しばらくは元には戻らないだろう。次に金利が上がるときは制御不能なインフレで暴力的な動きになり、マーケット云々よりも、社会不安が増幅するような展開になるかもしれない。

 「金利」の役割の一つとして「富の分配機能」がある。頑張って成し遂げた経済成長の成果を金利を通して分配する機能だ。一緒に頑張っていけば幸せになれる - 1つの希望だ。それが今や「富の分配」どころか「損の押し付け合い」になってきているのだから、世の中が殺伐としてくるわけだ。

 世界中でデモや騒動が増えているのも、このような状況を反映しているのではないだろうか。ベネズエラを筆頭にアルゼンチンやチリ、トルコなどでは既に通貨危機 and / or インフレに見舞われている。この日本でも暴動までは起きていないが、息苦しさが増して悪意が満ちてきている様に感じる。原因はおそらく「可処分所得の減少」だと思う。

 総務省が発表している統計上の物価上昇率はまだゼロすれすれだが、体感物価の上昇はもっと高い消費税引上げに伴う、いわゆる「便乗値上げ」は広がっているし、同じ価格で量を減らす「ステルス値上げ」もかなり進行。電気料金には原発のコストがこっそり乗せられ、病院の自己負担もじわじわと上がっている。税金の申告をすれば気がつくが、ここ数年配偶者特別控除等が削られるなど「ステルス増税」も進んでいる。おまけに「年金75歳支給」。払った年金も戻ってこないかもしれない。

 それに対して、給料・収入は十分に増えていない。政府機関発表の統計よりも実質の可処分所得はかなり減っているはずだ。銀行金利もほぼゼロで、口座維持手数料導入や振込等の手数料増額など、銀行による預金者へのコスト転嫁が進めば、預金は持っているだけで減る「目減り資産」になってしまう。「価値の下がるお金」を貰っても貰っても足りない - これではみんな余裕もなくなるし、いらいらするわけだ。

 現金、預貯金=いわゆる法定通貨は、一体何に対して減価していくのか?**株価なのか、地価なのか、それともデジタル通貨なのか。通貨発行権限がある国家が膨大な借金を抱えている以上、我々に(選挙以外の)決定権はない。やっかいなのは国外に逃げようにも、どこも状況が同じか日本より悪い事。アメリカもヨーロッパもあまり良い選択肢とは言えない現状だ。

 **株を買って儲かっている方もおられよう。しかし20,000円の平均株価が40,000円まで買われても、その間100円のパンが200円になり、100万円の車が200万円になれば実質儲けはゼロ5,000万円のマンションが1億円に値上がりしても同じである。(固定資産税が上がる分マイナス?)もちろん現金、預貯金のまま持っていた人よりは遙かにいいのだが..。ここは「目減り資産」を回避するという「守りの感覚」が必要なのかもしれない。

 今起きている事は過去に例がなく、全く着地点が見通せない壮大な金融の実験場だ。いっそブラックマンデーリーマンショックのように、銀行による無理な「レバレッジ」が原因なら株価暴落のような予想もたてやすいのだが、今回は輪の中心には銀行ではなく国家がおり状況が全く異なる。世の中には「株価暴落」を叫ぶ声もあるが、それは株をうまく買えていないことの裏返しでもある。何せ1,000兆円もの預金が銀行に眠っているのだから。

 前稿.「お金を借りるということ - 会社、個人、マーケットと「借金」の関係。」 でも書いたが、無節操な「借金」は破滅の元である。ただ、「国家」だけは例外だ。なぜなら誰かに借金返済を迫られることがない。それどころか貸出者であるはずの「納税者」=国民に増税を要求したり、返済猶予を強制したりする「権限」がある。つまり何でもあり。銀行とは違う。

 この7か月間、根底にこのような思いを抱えながらnoteしてきているが、この「薄気味悪さ」は当面解消しそうにない。トレーダーをしていた時もそうだったが、現状に不満を言ってばかりでもしょうがないので、与えられた状況でベストを尽くしていくしかないだろう。

 退職後も同じような覚悟が必要とはね(笑)。まあ、生きている限り何らかの戦いは続くものだが、せめて10年後ぐらいにはもう少し良い時代になっていて欲しいなあ。

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