"特別扱い" じゃない「日本」へ。ー 「円安」が迫る「普通の国」への変革。
2000年代前半、ロンドンやNYの同僚とフランクフルトにあるECB(ヨーロッパ中央銀行)にプレゼンしに行ったが、 "ZIRP" =Zero Interest Rate Policy=「ゼロ金利政策」について「損切丸」に質問が集中した。
当時「日本」は "特別扱い" だった。だって政策金利を「ゼロ」にするなんて考えられない時代だったから。どうしてそんな事になったのか、ECBの連中は興味津々。まさか自分達が後に "ZIRP" どころか「マイナス金利政策」まで導入しなければいけなくなるとは夢にも思わなかっただろう。
それが今 ”元” に戻ろうとしている。
そもそも20年もの間「お金」が世界中でタダ同然で借りられる状況が異常だった。その "幻想" の出所は「中国」。リーマンショック(2008)以降、安い製品をバンバン作って供給する「世界の工場」となり「ディスインフレ」の主役に躍り出た。だがそれは国策による1京円近い「借金」の上に建った砂上の楼閣。蓋を開けてみれば巨額の不良債権の山だった。
「コロナ危機」後に膨らんだ世界債務残高は実に3京円強。案の定 "バラマキ" の中心だったアメリカは強烈な「インフレ」に見舞われた。必要以上に「お金」を刷れば「インフレ」≓通貨価値の下落が起きるのは経済学のイロハ。壮大な社会実験が行われたが、結果はとてもシンプルだった。
ここでもたついたのが30年もの「デフレ」に悩まされた「日本」。この国は「黒船」が来ないと変われない。 "ハゲタカ" などと忌避していたが、結局不良債権処理にトドメをさしたのも "外圧" 。現状維持指向の強い国民性はなかなか変わらない。
今回の「金利正常化」局面もそう。財務省や日銀は出来れば「変わりたくない」。黒田総裁から植田総裁にバトンタッチしてもその傾向は続いている。特に痛みを伴う「利上げ」にはなかなか手が伸びない。これを覆そうと迫っているのが「円安」だ。介入など効かないのはわかっているが、「利上げ」にはまだハードルが高そうだ。
なるほど、MMT(現代貨幣理論)を振りかざす人達が使いそうなプロパガンダだ。国の借金(負債)=国債を買うのは国民(資産)なので、簿記の貸借対照表で見ると嘘とまではいえない。一見正論に見える。
だがこれは「借金の本質」を踏み倒している
住宅ローンで考えて見よう。消費者は銀行から「お金」を借りるが、20~30年に渡って返済する原資は何か。そう「お給料」だ。では「国債」はどうか。「国」にとっての「お給料」は「税金」(含.社会保険料)である。
(参照) 「財務省」の役割をもう一度考え直してみよう。|損切丸 (note.com)
令和5年度で見ると支出▼114兆円に対して収入68兆円で▼44兆円足りない。「元利金」=国債費▼25兆円が払えないので「国債」の再発行36兆円で賄っている、いわば「自転車操業」。年収700万円で毎年1,100万円使っていて家計が住宅ローンの「元利金」を払えないからと銀行に追加融資を求めるようなもの。個人なら破産必至。
「借金」=「国債」は支払いの先延ばしに過ぎない。「国債はいくら発行しても大丈夫」と主張している人は他人、あるいは自分の子孫に「借金」の支払いを回している。 "FACT"(事実)から目を背けてはいけない。
筆者は決して財務省の回し者ではないが、さすがに銀行員を30年近くやっていたのでこの*「借金の原則」だけは変わらない。国家財政の事を少しかじれば誰でもわかるはずなのに、どうも「お金」は財務省か日銀から湧いてくると考える一派がある。それを悪用したのがMMT。 ”インフレにならなければ” なんて条件付けはそもそも矛盾しており、論理が破綻している。
少し事情が違うのが主要通貨ドルを抱える「アメリカ」。ドルには恒常的に強い需要が発生し続けるので、他国よりは「借金」し易い。だがそれも程度の問題。「京」(円)を超える度が過ぎた「借金」をしてばらまけば「お金」の価値は下がる=「インフレ」になる。今それが「インフレ税」となって世界中を襲っている。
「円」「JGB」(日本国債)を巡る状況も厳しい。JGBが1,200兆円もあるということは、税収70兆円全額使っても「返済」に17年かかる。税収全部を国債費に回す事は出来ないわけで、仮に年10兆円づつ返せば120年(!)。こういうレクチャーを首相が受ければビビるのは当然で、「増税クXメガX」はすこし可哀想(笑)。まあ「インフレ」による生活圧迫ストレスがそうさせているのだろう。実際「デフレ」ではこういう論調はなかった。
日銀がそのJGBを600兆円近く保有している事が事態を更に困難にしている。しかし「円安」がここまで来ると「国富」減少による ”逆資産効果” の方が深刻なので、ここは「利上げ」一択。FRB、ECB同様、まずは「インフレ」を止めるしかない。それにしても相変わらずの「黒船」頼り。見ていてイライラする。動くのは早いに越したことはない。
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