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「コロナ危機」を「お金」の面から斬り込んで見る。

 「東京都の今日の新規感染者数366人。過去最大」

 「世界で新たに28.4万人感染。最多更新」

 「コロナ危機」に関する半ば「センセーショナル」なヘッドラインが流れている昨今。確かに「人の命」に関わるニュースなのでメディアも記事にはし易いし、左派系の報道は「人道記事」が大好き。

 一方、こういった風潮の中で「お金」に関する記事は敬遠されがちだ。というより忌み嫌われてさえいる。特に「清貧思想」が支配するこの日本では顕著で、今最も槍玉に挙がっているのが「Gotoキャンペーン」だろう。確かに感染が広がる中で全国にウイルスも広げてしまう観光政策は感心しない。延期を求める声が国民の半数を上回るのも、入院患者の手当で疲弊している医療関係者から不満が爆発するのも当然だろう。

 しかしこれを「恩恵」を受けるとされる観光業者の視点から見ると少し風景が変わってくる。彼らは今回の「コロナ危機」の最大の犠牲者でもある。

 「事業持続給付金100万円の申請をしているところです」

 「大家さん、家賃を当面安くしてくれませんか」

 「保証協会の融資が月末の支払いに間に合わないかもしれません」

 個人レベルの飲食業や旅館、ホテルでは毎日、毎月このようなやり取りが為されている。売上が▼80~90%にもなる中、仕入れ代金に家賃、従業員の給料等、支払いは待ってくれない。給付金や特別融資だけでは足らず、当面は貯金を取り崩して対応しているところも多いだろう。預金通帳の残高がどんどん減っていく恐怖は(金額の多寡はあるものの)「資金繰り」を担当していた筆者としても想像に難くない。

 「お金」が尽きれば「倒産」「廃業」である。今まで何十年やってきた老舗旅館であっても関係ない。特に多額の借金を抱えたまま倒れる場合は悲惨だ。*債権者の取り立ては時に熾烈を極める

 *(1)「損切丸」が東上野の支店で融資担当をしていた時にある取引先が「不渡り」になった。原宿の露店で300円とか500円とかで売っているような自然石のアクセサリーを夫婦とその息子がマンションの一室で「手作り」で作っている小さな会社だ。銀行には毎朝「赤算先リスト」というのが回ってくるのだが、そこは毎朝口座残高が「赤算」=不足なので「今日は▼OO円不足してますから埋めて下さいね」と電話しなければならなかった。
 *(2)なぜか銀行の閉まる3時前には口座残高がプラスになるのだが、今思えば毎日どんな「資金繰り」をしていたのだろう。そんな事が2年程続いたが、ある日遂に「不渡り」となった。「損切丸」保証付融資だけだったので実損は出なかったが、しばらくして社長がお店に現れた。債権者から逃れるために息子のアパートに逃げ込んでいたが、ようやく一息ついたらしい。そこで会社のあるマンションに案内してくれた。
 *(3)行って見てビックリした。そこら中のガラスが割られて、部屋は荒れ放題。何でも債権者がやってきて金目の物を一切合切持っていってしまうという。本来警察に届けても良いのだが、本人達も逃げているのでそれもままならない。漫画のウシジマくんではないが債権回収の現場は凄まじい「毎日毎日電話してくれて有難うございました。これが今お渡しできる中で一番良い物なので。」手作りのアクセサリーをくれた。あまり涙脆くもない23歳の若い担当者も、さすがにちょっとこみ上げてしまった。

 ここまで極端な状態になっているところは少ないだろうが、お店をやっている人は「お金」のことで頭が一杯。ただ「清貧思想」のこの日本では、それを声高に叫ぶことができない

 「命よりお金を優先させるなんて」

 いろんな方が指摘しているが、これは難しい問題である。確かに「お金」が全てではないが、「お金」がないと生きていけないのも事実。ワクチンや治療法が確立するまでは商売を止め、3年後ぐらいに再び店を開けるのが理想だろう。実際スパッと「廃業」するところもあるが、それはあくまで十分な「蓄え」があってのこと。問題はその3年間をいかに凌ぐのか、だ。

 「損切丸」では投資や株価などマーケットについて語ることが多いが、「資金繰り」に苦しむ事業者にとっては「寝言」にしか聞こえないだろう。欧米では当たり前に認識されているが、現実の「お金」は重い

 改めて思うのは、現在の社会経済が「あぶく銭」で成り立っていること。最低限の衣食住の生活に戻したら、ほとんどの産業が潰れてしまう。お酒があまり好きでない筆者としては、何もパンデミックの最中**「夜の街」に繰り出さなくても...、というのが正直なところだが、それで成り立っている「生活」というのもかなりの数存在する。

 **「ペスト」の時も、恐怖を免れるため多くの人が酒場に集って憂さを晴らしたという。しかも政府がそれを推奨したと言うから驚きだ。その他にも他の土地へ移動するなど、疫学上はやってはいけないことのオンパレードだったらしい。科学が発達した現代でも同じことを繰り返しているのだから、人間は本質的には変わっていないのかもしれない。

 「ウイルスは人類最大の敵」-そういうことを語る学者もいるらしいが、まさに今回それをまざまざと見せつけた格好だ。しかし「ペスト」の後にイギリスで雇用形態が変わり、経済構造が良い方向に変化したという歴史的事実もあるので、今回も「変化の芽」は生まれるだろう。

 実際この危機をビジネスチャンスにつなげている企業も多く、できれば窮地に陥っている業界の受け皿になることを願う。マクロ経済でもマーケットでも最終的にはそれが反映されたものに変わっていくはず。期待も込めて。

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