「お金」 > 「物」の量の状態が変わらない限り、物価上昇循環は止まらない。
「デフレよりインフレの方が "まし" 」
最近こういうコメントをネットでよく見る。30~40代の方だろうか。
本当にそうだろうか?
少なくとも "バブル" を経験した世代はそうは思わない。今レバノンやトルコの人々に言ったら怒り出すだろう。少し "バブル" をかじった50代の筆者に言わせると、 "バブル" もインフレもろくな物じゃない。
「値上がり」の時代。(4/30稿 ↓ )で最近の材料価格の値上がりについて書いたが、その他国内の豚肉価格、中国の生産者価格(PPI、直近@+6.8%/年)、新興国のインフレ(EM Inflation Index)と ”証拠” が相次ぐ。
欧米の株価が先行して上昇した2019年以降、実はインフレは始まっている。それがここにきて目に見える "価格" で現れてきた。 "ウッドショック" =木材価格の高騰などはその典型だし、最近銅、鉄の値上がりも激しい。
これ、本当に "まし" だろうか?
今日(5/11)は日経平均が▼909円も値下がりして溜飲を下げた人もいるかもしれない。だが「デフレよりインフレの方が "まし" 」なら矛盾している。「タワーマンション暴落説」もそうだが、そういうことにスカッとするのは、おそらく相対的に自分の「お金」の価値が高まるからだ。
ここで「損切丸」らしくマネーフローで考えて見よう。今日利食いや損切りで日本株を売った人達には数千億円か数兆円か手元に「お金」が渡る。その「お金」、次はどうするだろうか。金利ゼロの銀行預金やマイナス金利の国債に? 置いている間にも木材や豚肉の値段が上がっていくのに...。
簡単なゲームで考えて見よう。
①空腹の100人を集めて1人@100円ずつ配る
②食糧として@100円のパンを100個を置いておく
需給が均衡しているから、お腹が空いた順にパンはなくなり売り切れる。
ここで変化を加えてみる。
③次は1人@200円ずつ配り、パンは変わらず100個
200円使ってパンを2個食べる者が現れ、食いはぐれる者が出る。お腹はぺこぺこだが、次の配給を待つことに。
④今度も1人@200円ずつ配り、パンは50個に減らす
こうなると大変だ。前回食べられなかった者が@200円、あるいは手持ちの@400円全部使ってでもパン1個を確保に行くだろう。まさに争奪戦。
⑤④を繰り返す
パン1個の値段はうなぎ登りになり、1個@1,000円なんて事態も。何せ「お金」をいくら持っていても空腹は満たせないのだから。
2019年末のコロナショック以降(正確には2008年のリーマンショック以降)、日米欧の政府がやったのはこういうこと。1人当り10万円とか15万円の給付金が最たる例だ。中国を中心とした「物」の過剰供給があって保たれていた "均衡" がパンデミックで破れた。現在は京円単位の「お金」がマーケットに溢れている。
先程の日本株を売った「お金」の行き先の話に戻すと、「物」の値段が上がり続けているのに、今の金利水準で預金や国債に戻るとは考えにくい。もう一度株に戻すか、銅等のコモディティか、ビットコインやその他の暗号資産か。いずれにしろ ”インフレ資産” に向かうと考えるのが合理的だ。
つまり市場に溢れた「お金」を回収しない限り、↑ のゲーム⑤の状態が続くことになる。では「お金」を回収できるのは誰か? 財務省と中央銀行であり、具体的には「増税」と「金融引締」になる。
事実バイデン政権は富裕層や巨大企業を対象とした増税政策を示唆しており、元FRB議長のイエレン財務長官もFRBによる*テーパリングを支持(=tapering、債券など金融資産購入額を減らし量的緩和を漸減すること。医学用語では患者に投与している薬剤などの量を徐々に減らすことを指す)。向こう2年間金融引き締めがないと信じていた市場が、にわかに「年内にもテーパリング開始」と言い出した。いかにもアメリカらしい展開である。
*実はテーパリングは既に日銀によって実施されている。この3月の「金融政策総点検」でETF、国債共に実質買入減額措置に踏み切った。理由は簡単。「お金」がなくなったからだ。「損切丸」で「日銀バランスシート」シリーズを読んでこられた方には納得頂けると思う。
逆説的だが、米国株や日経平均、あるいはビットコインが調整気味に売られているのは、まさにこの「お金」の回収の臭いを嗅ぎ取ったから。商品市場の高騰と相まって警戒感が高まっている。
国債市場では、このところヨーロッパの金利上昇が顕著だ。ドイツ10年国債が@▼0.18%まで売られているが、ECBの政策金利が@▼0.50%であることを考えると+0.32%であり、なかなかの "高金利" 。それだけ将来の金融引締めに警戒的になっている。
「値上がり」の続くこの状況なら筆者はむしろ増税、金融引締めを支持する。特に日米欧のように「お金」のある国で「インフレ」という冒険をする必要はない。政治的に受けの良い消費税撤廃や給金金も良いが、結局「インフレ税」で生活者にツケが回ってくる。その「税率」は+3%や+5%など軽微なものではなく、+数十%にも及ぶ。前述のパンのゲームで言えば「お金」を引上げ無い限りパンの値段高騰は続く。原理はとてもシンプルだ。
繰り返しになるがインフレはろくな物じゃない。「値上がり」を経験したことのない世代は後になって「税率」が高いことに気付くだろう。いや、既にこれだけ「実質可処分所得」が減れば十分インフレだ。デフレは ”気が滅入る” が、インフレは ”カッとなる” 。
国債に加え、株等も「お金」の回収リスクを織り込み始めた。明らかに2020年までとは相場付が違っており、今後は自分の「お金」の置き場はよくよく考えた方がいい。理想は「金利」が十分に高くなってから預金や債券に移すことだが...その道のりでいくつもの ”揺れ” がやってくるだろう。
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