見出し画像

「自国通貨建だから財政破綻はしない」は本当か? Ⅱ - 「給付金」は究極の「インフレ政策」→ 「破綻」するのは「国」ではなく「国民」。

 衆議院選挙がやや ”意外” な与党勝利に終わって、早くも公約としての「給付金」が浮上している。来年の参院選も見据えれば自然な流れだ。

 「財務省が "財政破綻" などと言っているが "嘘" 。自国通貨建で国債や貨幣を発行しても国は破綻しない。速やかに1人10万円ずつ給付すべき」

 こういう言説をネットで目にするようになったが、おそらくMMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)に触発されたものだろう。「損切丸」でも何度か触れてきたトピックだが、ここで敢えて2020.7.18. 「自国通貨建だから財政破綻はしない」 は本当か? ↓ の続編として書く。

 概要は前編をお読み頂くと有り難いが、MMTは確かに良く出来た「レトリック」ではある。一読するととても説得力があるし、ネットの言説 ↑ も確かに間違ってはいない。だが*「レトリック」に見られる典型的特徴は大事な部分を巧妙に隠すこと。これはマジシャンが観客の目を一点に集中させて、死角になったところでタネを仕込む技術に似ている

 例えば一時流行った「アパート投資」の「利回り表示」@5%とか@7%とか言われると、一見「預金」のような金融商品に勘違いするが、不動産は証券や社債とは全く違う「収入」は「金利」のように確定的に入ってくる訳ではなく、入居者を「客付け」して初めて成り立つ「空室」になれば「お金」は一切入ってこないので、多額のローンを組んで「投資」するとローンが返済できなくて「破綻」したりする。こういうのを「投資」とは呼ばない。借金を元手にした「事業」、あるいは「投機」である。

 **MMT最大の「レトリック」は「インフレにならなければ」という前提が付く事。「経済」や「投資」を考える時、「お金持ち」が最も気にしているのがこの「インフレ」株や不動産に「投資」するのは「インフレ」による資産の目減りを防ごうとする行為が出発点だ。デフレのように「貨幣価値」が万全、もしくは「値上がり」するのが100%確実なら、「お金持ち」は「現金」「預金」を多く保有するだろう。

 **MMTが完全な理論なら、世の中から「国家デフォルト」はなくなるアルゼンチンベネズエラトルコもバンバン国債を発行すればいいだけ。だが実際は「破綻」する。そのほとんどは「インフレ」が原因だ。

 「損切丸」らしく「資金繰り」の観点から考察すると、「給付金」政策を一番喜ぶのは誰か間違いなく日銀である。これは「バランスシート」で考えると良くわかる( ↓ 「日銀バランスシート」@10/31)。

日銀バランスシート @31 Oct 2021

 日銀から見ると「給付金」は負債の「日銀銀行券」の発行に当たる。いわば***「日銀銀行券」という ”証券” を国民に買ってもらうことになる。この ”証券” の凄い所は返済期限がない事。いわば「永久国債」である。

 ***本来この ”証券” 「実体経済」に伴って発行されていくもの。従って理屈上「物価」によって価値が担保されている。だが「給付金」のように「実体経済」と関わりなく「日銀銀行券」だけを増刷すればどうなるか。答えは単純明快。「お金」の量が「もの」を上回って「物価」が上がる、即ち「インフレ」になる。過去の国家デフォルトはこれの行き過ぎが殆どだ。

 ではなぜ日銀「資金繰り」の観点から喜ぶのか。例えば1人当り10万円の「給付金」は約10兆円になり、それが「負債」として入る。その分日銀の「資金繰り」は楽になり、曰く付きの「政府預金」を返したり、あるいは「国債」やETF買入に使えるようになる。10万円なんてケチなことをいわず、1人100万円、1,000万円配れば、日銀には100兆円、1,000兆円もの巨額な「お金」が入ってくるので、またぞろ「黒田バズーカ」の復活で就任当初のような "景気の良い発言" も戻ってくるだろう(苦笑)。

 はて、これは良いことなのか?

 確かに何もせずに10万円貰えれば誰でもうれしい①飲食や旅行にパ~っと使いたくもなるだろうし②貯金に回す人もいる。だが ↑ で述べた理屈をよく考えて欲しい。①②は最もやってはいけない「お金」の使い道だ。

 実際前回の「10万円給付金」後の「物価」動向を振り返ってみよう「値段が上がったもの」の何と多いことか(安くなったのは ”円” だけ)。これは偶然ではないもっと大型の「給付金」を実行したアメリカでは如実に「インフレ」になっており、理屈は日本も一緒だ。

 皆さんこれでハッピーだろうか? おそらく ”否” の人が多いはず

 「破綻」を順番付けすれば、「国」が「破綻」して「国民」が大変になるのではなく「国民」が「破綻」するのが先財務当局にしてみれば、借金が棒引きになる「インフレ」は望むところで「国民」がどうなろうと知ったことではない。だが最終的に「破綻処理」するのが面倒、というのが正直なところで、先の "財務次官投稿" の真意もそこにあると感じる。

 今回ももし「給付金」を貰えるとしたら、浮かれて浪費したり「貯金」するのはやめた方がいい家とか車とか耐久消費財とか、長く使う必要な「もの」に「投資」すべき(自信がある人は "株" も有り)。もっとも「お金」に余裕があればの話だが...。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?