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オリンピックの公式ロゴマークとキャラクターでラッピングされた電車が走っている。 狭く…
わたしが最初にそれと遭遇したのは、去年の12月10日だった。手帳に書いたから、日付まではっ…
いつかの時代、パリの街に、芸術家志望の青年がいて、食堂で働く少女がいた。 ふたりは、…
見えるものを見えるままに描くのではなく、自分が見たいと思うものしか描けない。 だから…
紀伊國屋書店の前で、ヴィヴィアン・ウエストウッドの服を着た年齢不詳の美しい女性とすれ違…
「世の中には、自分に都合の悪いことを都合よく忘れられる人間と、そうじゃない人間とがいるん…
わたしは人を喰って帰る男を待っている。男は夜7時ごろに帰ることもあれば、日付が変わってからそっとドアを開けることもある。でもわたしはどんなときも男の帰りを待っている。居間兼台所兼ダイニングで、自分ひとりぶんの夕飯を前に。 「先に食べてていいのに」 男はいつも言う。 「いいのいいの」 わたしは向かい側の椅子に座った男に焙じ茶を出し、自分のために作った夕飯を温めなおしてテーブルに置く。きょうはトマトときのこのソースをかけたチキンソテーとわかめスープ、温野菜のサラダと雑穀ごは
白い乳房に、桜桃のような乳首。まるく、つややかで、口に含めば舌がとろけるかと思うほど、…
満開の桜は人を狂わせるのだと教えてくれた男と、夜更けの桜の樹の下ではじめて交わりました…
わたしの初恋は、シャネルの5番だった。 文芸サークルの新歓コンパで、空いていた右隣の…
ねむこ。水木しげるの漫画が好きなきみと、初めてふたりで深大寺へ遊びに行ったのが去年の6…
日曜日、前の晩から泊まりに来ていた恋人と、近くのファミレスに出かけた。 私たちは先月…
警視庁捜査一課の課長が主人公で、毎回、凶悪犯罪──というにはどこかゆるい事件を解決して…
朝7時。学校の玄関はいつも独特のにおいで私を迎える。土と、埃と、太陽の熱に、すこしだけカビくささがまじったようなにおい。わたしは、これから先の人生ずっと「青春」「高校時代」という言葉にふれるたびに、このにおいを思い出すだろう。といまから確信している。 階段をのぼる。3階にあがる。3年7組。入試シーズン本番だから、来る人はきょうも少ないだろう。誰もいない教室は気持ちがいい。 教室のいちばんうしろの、窓際の席。椅子をそっと引いて、座る。座って、机に頬をつける。ひんやりした感