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テレビドラマを観ている。

 警視庁捜査一課の課長が主人公で、毎回、凶悪犯罪──というにはどこかゆるい事件を解決していくテレビドラマがある。登場人物は全員いまどきめずらしいほど単純で、また、いまどきめずらしいほど善良だ。だからおれは、疲れて帰宅してから、ビール片手に録画を欠かさず観るくらいには、このドラマが好きだ。
 主人公とその妻は、病気で死んだひとり娘の月命日に、カレーライスとプリンを食べる。どちらも娘の好物だったという設定だ。
 この場面になると、必ず思い出す。
 昔のことだ。
 つねに散らかった、うっすらといやな臭いが漂う狭いアパートの部屋で、毎日ただぼんやり過ごしていた女と、怒り、泣く以外の感情表現ができなかった息子。
 息子はなにが好物だっただろう。と思う。
 まだ死んではいないだろう。たぶん。とも思う。
 テレビには、清潔な官舎の居間と笑顔の妻と猫と、娘の仏壇がうつっている。
 それがいつもまぶしい。
 まぶしくて、すこし気が遠くなる。