ねむことともに

 ねむこ。水木しげるの漫画が好きなきみと、初めてふたりで深大寺へ遊びに行ったのが去年の6月なかばの日曜日。天にも昇る気持ちでいたぼくが、交通事故でほんとうに天に昇ってしまったのは、その翌日の月曜日の朝だった。
 と、ぼくが、いまの「オバケ」の姿になったときの話をわざとすると、ねむこは「不謹慎」といつも怒る。「そういうのは、やめて。嫌いになっちゃうよ」と。嫌われるのは困るけど、まっすぐものを言い、言われたこともまっすぐ受け止める。ねむこのそういうところがぼくは好きだ。健全な感じがする。
 「オバケ」のぼくは、ねむこの隣に漂いながら暮らしている。空気に融けるように、漂って、寄り添っている。ただしプライバシーは守る。そんないまの暮らしを、ぼくは、ぼくの家族には申し訳ないけど、幸せだと思う。
「成仏してほしくない」
 眠る前、ベッドのなかで、ねむこはときどき、ぽつんと言う。
「ごめん。わたしのほうが、ずっと不謹慎だね」
「そんなことない」
 ほんとうにそうだ。ぼくも成仏なんてしたくない。明日も明後日も明明後日もその次の日も次の次の日もずっとこの暮らしがつづいてほしい。そう願いながら、ぼくは今夜も、ねむことともに眠る。